貸地・貸家明け渡し

不動産の賃借人が認知症である場合の対応

今回は、「不動産の賃借人が認知症である場合の対応」というテーマについて、賃貸人側の目線から、どのような法的問題が想定され、それに対する具体的な対応策について、簡潔かつ分かりやすくご説明いたします。

第1 借地・借家における賃借人の高齢化に伴う社会的問題

社会全体の高齢化は、借地・借家の賃貸借契約にも大きな影響を及ぼしています。 具体的には、借地・借家に長年居住されている賃借人が高齢となり、既にお子様達も独立し、お一人で生活をさせている場合に、認知症を患ってしまうケースや要介護の状態になってしまうケース等などが挙げられます。 この場合、賃貸人・賃借人間でどのような法的問題が生じ、賃貸人側はこれにどう対処すべきかを、弁護士の立場からご説明させていただきます。

第2 不動産賃貸経営上の問題点

1 賃料延滞や用法遵守義務違反のリスク

賃借人は、契約で定められた時期に毎月の賃料を支払う義務を負うのが一般的です。しかし、借地・借家の賃借人が認知症を患っている場合には、同人が毎月の賃料をきちんと支払うことが困難な場合もあり、賃料の支払いが遅滞してしまう事態が容易に想定されます。 また、賃借人は、契約によって具体的に定められている用法に従う必要がある(民法第616条、第594条1項)ところ、賃借人が認知症の方であれば、これに違反してしまうことも想定されます。 こういった事態が生じた場合、「第3・2 法的手続の場合」で後述する通り、賃貸人は、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れを根拠に、賃貸借契約の終了に基づく明渡請求等の法的措置を講じることが考えられます。

2 明渡交渉等をする場合、誰を相手方にすべきか

賃貸人が、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れといった法的措置を講じる場合、賃借人に対して通知(意思表示)をする必要がございますが、認知症の方に対する通知(意思表示)が、有効になるのかが問題となります。 法律上は、認知症の方等の成年被後見人には意思表示の受領能力(意思表示を了知する能力)が認められておりません(民法第98条の2)。

したがいまして、借地・借家の賃借人が成年被後見人であるときは、成年後見人に対し、更新拒絶や解除を通知する必要があります(賃借人が被保佐人または被補助人であるときは賃借人本人に対して前記通知をすることになります)。 ここでいう「成年後見」制度がどのような制度であるのかについても、ご説明いたします。

3 成年後見制度

⑴ 成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分でない方について、同人の権利を守る支援者(成年後見人)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。 後見人は、身上監護に関する法律行為(本人の生活や健康,療養等に関する法律行為)と財産管理(被後見人の財産内容の正確な把握,年金の受領,必要な経費の支出といった出納の管理,預貯金の通帳や保険証書などの保管など)の事務を行います。

⑵ しかし、後見人選任の申立てをすることができるのは、基本的に、本人・配偶者・四親等内の親族および検察官等に限られる(民法第7条)という点に注意をしなければなりません。 つまり、賃貸人は、申立権者になることはできないため、賃借人の親族等に対して、後見人選任の申立てをして頂くように要求する必要がございます。 裏を返せば、賃借人の親族の所在等を把握しなければ、後見人選任の申立てをするように協力を求めることすらできないことになります。

⑶ そこで、このような場合に頼りになるのが、我々弁護士です。弁護士であれば、職務上の請求権を利用することで、賃借人の戸籍等を取り寄せることができ、親族とコンタクトを取ることが可能となります。 そして、後見人が選任された場合には、当該後見人が交渉相手の窓口となり、明渡請求の交渉等を進めていくことが可能となります。

第3 賃貸人が取りうる法的手段

1 任意交渉の場合

前述した「成年後見制度」により後見人が選任されれば、賃貸人は、後見人と任意で交渉を進めていくことになります。

2 法的手続の場合

⑴ 一般的に、賃貸借契約に関する更新拒絶や解約申入れの主張が認められるためには、正当事由が必要となります(借地借家法第6条、第28条)。 高齢の賃借人が賃貸借契約期間中に認知症やその他の理由によって介護が必要な状態になってしまったことを理由に、賃貸借契約の更新拒絶や解約申入れができるかが問題となります。 しかし、認知症や要介護となったことだけでは解除事由とはならず、認知症や要介護となったことによって実際に本人や周囲の人の生命や身体に危険があるとか貸室を正常に管理できないという具体的事情がなければ、契約を解除することはできません。

⑵ 裁判例においても、賃借人が高齢であることを正当事由を阻害する一要素として考慮したものが多数ございます(東京地判昭和60年12月12日、東京地判平成19年2月14日)。 そこで、解約申入れをご希望される場合には、正当事由を基礎づける事情やエビデンスを集めておく必要がございます。

第4 結語

このように借地・借家契約の賃借人が高齢となり、認知症を患ってしまうことに伴い賃料延滞等の問題が発生する事態が、近年増加しております。賃貸人側は、常にこのような事態に備え、早い段階で、法的な手段を講じるのが宜しいかと存じます。 詳しい話をお聞きになりたい方は、お気軽に弁護士法人朝日中央綜合法律事務所の弁護士にご相談下さい。

以上

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