税務訴訟
税務訴訟に関する近時の裁判例
第1 はじめに
前回の記事(「税務訴訟の手続き」)では,税務訴訟に至るまでの手続きの全体像を概観いたしました。
そこで,本稿では,類型別に税務訴訟に関する近時の裁判例をみていきたいと思います。
第2 納税申告
◆福岡地判平成26年11月10日
(事案の概要)
理容業を営んでおり,事故により当時意思能力を欠く常況にあった原告が,長男が原告名義でした所得税に係る修正申告及び消費税等に係る期限後申告(以下「本件修正申告等」という。)について,税務署職員から強要されるなどした結果,無権限であるため無効なものであり,その内容も客観的事実と異なるなどと主張して、被告である福岡税務署長に対し、本件修正申告等に基づいて納付した所得税及び消費税等相当額の誤納金並びにこれに対する還付加算金の還付を求めるとともに,賦課決定処分の取消しを求めた。
(結論)
被告福岡税務署長がした処分はいずれも適法であるから,原告の請求を棄却する。
(判断のポイント)
原告の長男がした本件修正申告等については,原告のために事務管理が成立し,納税の効果は原告に帰属する。
仮に,原告の意思が,本来の納税義務の範囲より少ない税額を申告し,納税を免れようとするものであるとすれば,法的秩序に反し容認できないから,修正申告等が,納税者の意思に反したとしても,事務管理は成立する。
原告本人が自ら隠ぺい工作を行った場合だけでなく,原告から依頼を受けた第三者が隠ぺい工作を行った場合にも,原告本人に重加算税が成立する。
原告の長男が,事務管理として行った売上額の一部を除外した帳簿に基づく過少申告は,原告が事故前に継続的に有していた意思に沿い,実現したものとして,原告の行為と同視すべきであるから,重加算税が成立する。
第3 所得税
1 所得控除
◆東京地判平成27年2月24日
(事案の概要)
原告は,事実上の婚姻関係にある者を控除対象配偶者として,所得税の確定申告をしたところ,処分行政庁から,配偶者控除の適用はできないとして,更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更生処分等」という。)を受けたことから,本件処分の取消しを求めた。
(結論)
裁判所は,原告の所得税について,配偶者控除を適用することはできず,本件更正処分等を適法と認め,請求を棄却した。
(判断のポイント)
所得税法の「配偶者」は,民法における「配偶者」と同じ意義であり,事実上の婚姻関係にある者は含まれないとし,内縁関係にあったにとどまる原告は,配偶者控除の適用を受けることはできない。
2 収入金額
◆東京高判平成25年11月21日
(事案の概要)
原告は,渋谷税務署長に対し,原告の亡父から相続により取得した不動産の譲渡に係る所得を分離長期譲渡所得の金額に計上して平成21年分所得税の確定申告をしたが,平成23年3月2日,上記譲渡に係る譲渡所得のうち亡父の保有期間中の増加益に相当する部分については所得税法9条1項15号の規定(以下「本件非課税規定」という。)により所得税を課されないことを理由に,平成21年分所得税の更正の請求をしたところ,渋谷税務署長から,平成23年5月31日,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けたため,原告が,渋谷税務署長の所属する国に対し,本件通知処分の取消しを求めた。
(結論)
原告は,亡父の保有期間中の増加益に相当する部分についても,所得税を払う必要があるため,本件通知処分は適法であり,原告の請求を棄却した。
(判断のポイント)
所得税の課税対象である所得とは,個人が収入等の形で新たに取得する経済的価値をいう。
本件非課税規定にいう,相続等により「取得するもの」とは,相続等により取得する財産そのものではなく,その財産の取得によりその者に帰属する所得である。
相続により取得した不動産に係る譲渡所得のうち被相続人亡父の保有期間中の増加益に相当する部分は,所得税法9条1項15号所定の非課税所得に当たらない。
第4 法人税
◆東京高判平成25年9月18日
(事案の概要)
原告が,本件事業年度の法人税の確定申告をしたところ,大隅税務署長から,①原告等とその元取締役らとの間で成立した調停(以下「本件調停」という。)に基づいて原告に支払われた解決金及び同調停の成立により消滅した原告の借入金支払債務に相当する金額が益金の額に算入される等として更正処分等(以下「本件更生処分等」という。)を受けるとともに、②原告は解決金相当額をその代表者に役員給与として支給したとして告知処分等(以下,「本件告知処分等」といい,本件更生処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことから,原告が,上記の解決金は原告に帰属しないし,上記借入金支払債務も本件調停の成立により消滅したものではない等と主張して,本件各処分の取消しを求めた事案。
(結論)
本件更生処分等は一部を取り消し,本件告知処分等は適法。
(判断のポイント)
調停は,調停委員会の関与の下に成立したものであり,調停条項に相互に矛盾し,あるいは趣旨が不明瞭であるといった点は見受けられないから,調停条項の文言に従い,原告に対する解決金の支払義務を定めたものといえる。
原告の借入金支払債務のうち,3分の2の額は,調停の成立により消滅したと認められる。
第5 おわりに
上記のとおり,税務訴訟の裁判例は多岐に渡り,税務訴訟を行う上で,その分析は不可欠です。
朝日中央綜合法律事務所には,税務訴訟に強い弁護士が多数在籍しているだけでなく,当事務所と同グループに税理士法人もございますので,弁護士と税理士が同じフロアで働いており,いつでも協力を仰ぐことができます。
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