(1)
相続紛争長期化の原因
相続紛争は、 長期化することが多いと言われています。 後述するように、 調停、 審判、 訴訟の各手続の進め方次第では、必ずしも長期化するとは言えませんが、 一般に長期化 するケースが多いのは、 次のような理由によると解されます。
(イ)
親族間の感情的対立
相続紛争の殆どは、 親族間の紛争です。 相続問題が起こるまでは一見円満な関係であっても、 その裏には無意識にフラストレーションが存在していることがありま す。 このフラストレーションが相続をきっかけとして一気に爆発し、 深刻かつ永続 的な感情的対立となってしまうというのはよく見られる例です。
また、 長男や長男の妻が被相続人の生前、 大変な苦労を強いられたのに、 次男や 三男が長男と同等の法定相続分を主張してきた場合に、 自分達の苦労が相続分に反 映されないことにより、 大きなフラストレーションが溜まる場合もあります。
このように、 親族間の感情的対立が一定のレベルを超えますと、 合理的判断がで きなくなり、 自己の要求を貫徹することに固執し、 法の定める基準による合理的な 解決を拒絶するという態度となります。
このようになると、 審判ないし判決を出してもらい、 それにもとづく強制執行を するか、 あるいは解決を諦めるか、 いずれかしかなくなってしまいます。
相続紛争は、 常にこのような側面を有しており、 解決への方針や手順を間違えま すと、 上記のような最悪の結果となってしまいます。
また、 長男や長男の妻が被相続人の生前、 大変な苦労を強いられたのに、 次男や 三男が長男と同等の法定相続分を主張してきた場合に、 自分達の苦労が相続分に反 映されないことにより、 大きなフラストレーションが溜まる場合もあります。
このように、 親族間の感情的対立が一定のレベルを超えますと、 合理的判断がで きなくなり、 自己の要求を貫徹することに固執し、 法の定める基準による合理的な 解決を拒絶するという態度となります。
このようになると、 審判ないし判決を出してもらい、 それにもとづく強制執行を するか、 あるいは解決を諦めるか、 いずれかしかなくなってしまいます。
相続紛争は、 常にこのような側面を有しており、 解決への方針や手順を間違えま すと、 上記のような最悪の結果となってしまいます。
(ロ)
遺産の全容把握の困難性
相続紛争の中で大きなウエイトを占める遺産分割紛争においては、 遺産分割協議の前提として遺産の全容を明らかにすることが要請されます。 ところが、 被相続人 が生前、 内容を相続人に教えていなかったり、 時には被相続人が自己の財産の内容 を把握していないという場合があります。
このような場合、 相続人としては、 遺産分割協議を始めるにあたってまず、 遺産 の内容を調査しなければなりません。 銀行や証券会社に問合わせたり、 被相続人の 残した日記やノートを調べたり、 その調査は容易ではありません。 仮りに相続人の 一人がその調査をひととおり行って遺産の内容を他の相続人に開示したとしても、それで全部であるとは仲々信用されなかったりします。 中には中途半端な開示をし たためにかえって他の相続人から、 遺産の一部を隠しているとかとり込んでいるな どと非難されるという場合もあります。 これをきっかけにして相続人間において疑 念と怒りが渦巻き、 遺産分割の実質的な話合いに入れないということにもなりかね ません。
以上のように、 遺産の調査や開示をめぐって相続人間に深刻な対立が生ずるとい う例は非常に多いといえます。
これは、 結局のところ、 遺産の全容の調査が困難であることに起因しているので あって、 これが相続紛争長期化の大きな原因となっていることは否定できません。
このような場合、 相続人としては、 遺産分割協議を始めるにあたってまず、 遺産 の内容を調査しなければなりません。 銀行や証券会社に問合わせたり、 被相続人の 残した日記やノートを調べたり、 その調査は容易ではありません。 仮りに相続人の 一人がその調査をひととおり行って遺産の内容を他の相続人に開示したとしても、それで全部であるとは仲々信用されなかったりします。 中には中途半端な開示をし たためにかえって他の相続人から、 遺産の一部を隠しているとかとり込んでいるな どと非難されるという場合もあります。 これをきっかけにして相続人間において疑 念と怒りが渦巻き、 遺産分割の実質的な話合いに入れないということにもなりかね ません。
以上のように、 遺産の調査や開示をめぐって相続人間に深刻な対立が生ずるとい う例は非常に多いといえます。
これは、 結局のところ、 遺産の全容の調査が困難であることに起因しているので あって、 これが相続紛争長期化の大きな原因となっていることは否定できません。
(ハ)
裁判システムの不備
相続をめぐる紛争のうち、 遺産分割や寄与分に関する紛争は家庭裁判所の管轄であり、 調停、 審判という手続となります。 しかし、 この調停や審判は、 紛争解決シ ステムとしては通常の訴訟に比べて不十分な面があります。
(a)
調停
調停では、 調停委員又は家事審判官 (裁判官) が話合いの斡旋をしてくれますが、 調停の本質は、 裁判所で行う任意の話合いです。 当事者の全員の合意がなけ れば、 調停は成立しませんし、 当事者の1名が調停への呼び出しに応じない場合 には、 原則として調停は成立しません。
このように、 調停はその制度の本質から来る一定の限界があります。
現実には、 調停期日を 20 回以上重ね、 話し合いの努力をし、 あと一歩のとこ ろで調停が成立しそうな時に、 相続人の一人が死亡し、 その人の相続人 (新たな 当事者) がどうしても当該調停案を受け容れないため、 結局、 調停が不成立に終 わったというケースもあります。 このケースでは、 実に調停に2年半を尽やし、 結果的にはその時間を無駄にしたということになります。
このように、 調停はその制度の本質から来る一定の限界があります。
現実には、 調停期日を 20 回以上重ね、 話し合いの努力をし、 あと一歩のとこ ろで調停が成立しそうな時に、 相続人の一人が死亡し、 その人の相続人 (新たな 当事者) がどうしても当該調停案を受け容れないため、 結局、 調停が不成立に終 わったというケースもあります。 このケースでは、 実に調停に2年半を尽やし、 結果的にはその時間を無駄にしたということになります。
(b)
審判
審判は、 調停と異なり、 相続人の同意不同意に関係なく、 審判官 (裁判官) が下すもので、 この審判に対して当事者全員が不服申立をしなければ、 その審判が 確定し、 紛争が解決します。
しかしながら、 この審判が紛争の終局的解決にならない場合があります。 例え ば、 遺産分割の前提問題として、 ある不動産が遺産であるか否かについて、 相続 人間に争いがある場合に、 家庭裁判所がこれを遺産であると認定して遺産分割審 判を下したとします。 この場合、 当該不動産が遺産であるとした家庭裁判所の判 断には「既判力」がないため、 この点を争おうとする当事者は、 別途これが自分の 固有財産であることの確認を求める通常訴訟を起こして、 先の審判の一部を結果 的に覆すことができます。
このように家庭裁判所の審判も紛争の終局的解決とならない場合があり、 その 意味では紛争解決システムとして不十分な面があると言わざるを得ません。
しかしながら、 この審判が紛争の終局的解決にならない場合があります。 例え ば、 遺産分割の前提問題として、 ある不動産が遺産であるか否かについて、 相続 人間に争いがある場合に、 家庭裁判所がこれを遺産であると認定して遺産分割審 判を下したとします。 この場合、 当該不動産が遺産であるとした家庭裁判所の判 断には「既判力」がないため、 この点を争おうとする当事者は、 別途これが自分の 固有財産であることの確認を求める通常訴訟を起こして、 先の審判の一部を結果 的に覆すことができます。
このように家庭裁判所の審判も紛争の終局的解決とならない場合があり、 その 意味では紛争解決システムとして不十分な面があると言わざるを得ません。
(ニ)
判例、 実務の未成熟性
相続紛争に関する判例や実務の取扱いは、 まだ十分に固まっているとは言えません。
代襲相続人の特別受益、 代襲相続人の寄与分、 遺留分と寄与分の関係等々、 複雑困難な問題が数多く、 判例が少ない論点も多数残されています。 判例が少ない論点 について学説がいくつにも分かれ、 通説が確立していないという例は多数見られま す。 これらの判例、 実務の未成熟性が紛争の解決をより難しくしています。
代襲相続人の特別受益、 代襲相続人の寄与分、 遺留分と寄与分の関係等々、 複雑困難な問題が数多く、 判例が少ない論点も多数残されています。 判例が少ない論点 について学説がいくつにも分かれ、 通説が確立していないという例は多数見られま す。 これらの判例、 実務の未成熟性が紛争の解決をより難しくしています。