A は、 妻 B との間に二子 X1、 X2 を設けていましたが、 70 才ころ妻 B を亡くしました。 その後、 間もなくAは家事手伝いのため、 Y女と同居するようになりました。 ところが、 Y 女は A が老衰し、 正常な判断能力を欠いたと見るや、 A に婚姻届を作成させ、 これを 市役所に提出してしまい、 戸籍上、 妻たる地位を得ました。 その約1年後 A は死亡しま した。 A 死亡後、 Y 女と A の実子 X1、 X2 との間で、 遺産分割紛争が生じました (遺産総 額約 10 億円)。 X1、 X2 は、 Y 女による A との婚姻届の作成、 提出は A の意思にもとづい ておらず、 A と Y 女との婚姻は無効であることの確認を求める訴訟を提起しました。
X1、 X2 は、 A と Y 女の同居生活の態様、 A の心身状況、 同居開始時において Y 女が作成した念書の内容、 親戚への手紙の内容、 A 死亡時における Y 女の言動等、 A に婚姻意 思がなかったことを示す間接事実を丹念に主張、 立証しました。
訴訟提起から約8か月後、 裁判所は当事者双方に対し和解を勧告しました。 勧告のあ った和解の内容は、 X1、 X2 が Y 女に対し、 解決金として約 5000 万円を支払う代わりに Y 女は何らの遺産を取得しないというもので、 結局その内容の訴訟上の和解が成立しま した。 Y 女には A の相続人としての地位は残ったものの、 実質的には相続権がないのと 同様の結果となり、 最終的には、 X1 と X2 が全財産を取得しました。 X1 と X2 は、 その 後 A の遺産分割協議をなし、 円満に遺産の分割を完了しました。
A 死亡時において、 Y 女は戸籍上妻ですので、 2分の1の法定相続分を有しています。
一方、 X1、 X2 は、 Y 女が相続人ではないと主張しているわけであり、 当事者間には、 遺 産分割の根本的な前提問題について、 抜き差しならない対立が存在していたと言えます。
このケースで、 X1は、 Y女に相続人としての地位があるか否かをまず決しなければ紛 争解決の糸口が掴めない、 この問題さえ解決すれば、 遺産分割問題が終局的に解決する と判断しました。
そこで、 婚姻無効確認訴訟という手段を選択したわけです。
この訴訟は、 和解という形で終結しましたが、 結果的には、 X1、 X2 が全遺産を取得 し、 Y 女に代償金を支払うという遺産分割協議が成立したわけです。 遺産分割の前提問題そのものを直接解決する訴訟を提起し、 その手続の中で実質的な遺産分割協議を成立 させ、 比較的早期に紛争を解決した例です。