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旧法の問題点
旧法の問題点は、 正当事由制度による強い解約の制限にあります。 すなわち、 建物の賃貸借契約について、 期間の定めがある場合においては、 貸主が期間の満了の1年前から6か月前までの間に借主に対して更新を拒絶する旨の通知をしない限り、 契約は期間満了により終了せず、 従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます (借地借家法第26条第1項)。 また、 期間の定めのない場合においては、 貸主が借主に対し解約の申入れをした場合、 契約は解約の申入れの日から6か月を経過することによって終了します (借地借家法第27条第1項)。 そして、 この更新拒絶通知及び解約の申入れには 「正当事由」 の具備が必要とされ、 厳しい制限が加えられております。
正当事由の存否は、 賃貸人及び賃借人の建物の使用を必要とする事情、 建物の賃貸借に関する従前の経過、 建物の利用状況、 建物の現況など諸般の事情を斟酌して、 裁判所の包括的な判断によって認定されます。 また、 さらに賃貸人は賃借人に対し立退料の支払いや類似の代替家屋の提供などの財産上の給付が要求されることがあります (借地借家法第28条)。
この正当事由制度は、 出征兵士の銃後の家族や都市労働者などの借家人を保護するために、 戦時立法として昭和16年に制定されたものです。
正当事由の認定に関する判例の傾向は、 貸主にとって非常に厳しい認定がなされました。 当初は貸主の自己使用の必要性が存在しない限り正当事由を認定しないとの判断が続き、 その後、 立退料の提供による正当事由の補完という考え方が定着しましたが、 立退料の金額の高騰化が進み、 貸主の負担が大きくなるという事態になりました。
このように正当事由の有無は、 裁判所の極めて包括的な判断によってなされるため、 正当事由が認定されるためにはいかなる事情が必要なのか、 正当事由が認定されるとしても立退料の金額がどのくらいになるのか貸主にとって事前の予測が困難な状況にあります。 また、 立退料の極端な高額化も貸主の大きな負担となっていました。
このため、 貸主にとって契約の期間や収益について予測することができなくなり、 借家の供給を躊躇させることになりました。 正当事由制定当時と異なり、 現在日本経済は高度に発展し、 住宅の供給力は飛躍的に大きくなっています。 すなわち、 昭和23年ころ、 住宅の総数は世帯総数より著しく少なく、 住宅供給量は圧倒的に不足していましたが、 その後、 日本経済の高度成長とともに、 住宅供給量は増加していき、 昭和43年ころ、 住宅の総数は世帯総数より多くなり、 平成5年ころの住宅の空屋率は9%台となり、 住宅供給量は十分なものとなりました。 しかしこのような経済情勢の変化にもかかわらず、 正当事由制度が従前のまま残っているため、 良質な借家の供給を阻害する原因となり、 健全な賃貸住宅市場が形成されず我が国の賃貸住宅市場を歪める事態に陥っております。
具体的には、 平成5年度における日本の賃貸住宅の平均床面積は45㎡であり、 イギリス88㎡、 アメリカ111㎡、 ドイツ75㎡、 フランス77㎡と、 欧米先進諸国に比べて著しく狭いものとなっております。 また、 住宅規模に関し、 床面積が40㎡未満の借家の比率について欧米先進諸国と比較してみると、 フランス0.6%、 ドイツ3.1%、 アメリカ0.0%であるのに比べて、 日本は48.4%と約半数の比率となっています。 他方、 床面積が80㎡以上の借家の比率を比べますと、 日本は7%にすぎないのに対し、 フランス50%、 ドイツ40%、 アメリカ70%と欧米先進諸国の借家の多数を占めます。 このように日本の賃貸住宅は極めて狭く、 小規模なものです。
これは、 正当事由による解約の制限があるため、 家主は借主の自主的な退去が期待しにくい借家をさけて、 早期の退去が期待できるワンルームマンションなどの小規模な借家を志向したものと考えられます。
また、 正当事由の補完として機能する立退料の高額化のリスクを事前に回避するため、 家主は新規の借家契約に際し、 あらかじめ権利金や高額な家賃という形で、 借主から立退料相当分を確保しようとする傾向にあり、 家賃、 権利金が高騰し、 これが新規の借主にとって負担となっています。 このため、 低所得者など経済的弱者が新しく住宅を借りるのが極めて難しいのが現状です。
さらに、 正当事由による解約の制限により、 既存の借家契約の借主は強力に保護されているため、 家主は老朽化した借家の建て替えの目的であっても、 借主に対し明渡しを求めることは困難です。 そのため、 借家が老朽化しても家主は建て替え、 修繕をすることができなくなり、 極めて古く危険な借家が多数存在するようになりました。 既存の借家人を必要以上に保護するために生じた矛盾といえます。 先の阪神大震災において、 多くの老朽化した借家が倒壊して、 多数の借家人が犠牲になるなどの悲劇もおきています。
正当事由の存否は、 賃貸人及び賃借人の建物の使用を必要とする事情、 建物の賃貸借に関する従前の経過、 建物の利用状況、 建物の現況など諸般の事情を斟酌して、 裁判所の包括的な判断によって認定されます。 また、 さらに賃貸人は賃借人に対し立退料の支払いや類似の代替家屋の提供などの財産上の給付が要求されることがあります (借地借家法第28条)。
この正当事由制度は、 出征兵士の銃後の家族や都市労働者などの借家人を保護するために、 戦時立法として昭和16年に制定されたものです。
正当事由の認定に関する判例の傾向は、 貸主にとって非常に厳しい認定がなされました。 当初は貸主の自己使用の必要性が存在しない限り正当事由を認定しないとの判断が続き、 その後、 立退料の提供による正当事由の補完という考え方が定着しましたが、 立退料の金額の高騰化が進み、 貸主の負担が大きくなるという事態になりました。
このように正当事由の有無は、 裁判所の極めて包括的な判断によってなされるため、 正当事由が認定されるためにはいかなる事情が必要なのか、 正当事由が認定されるとしても立退料の金額がどのくらいになるのか貸主にとって事前の予測が困難な状況にあります。 また、 立退料の極端な高額化も貸主の大きな負担となっていました。
このため、 貸主にとって契約の期間や収益について予測することができなくなり、 借家の供給を躊躇させることになりました。 正当事由制定当時と異なり、 現在日本経済は高度に発展し、 住宅の供給力は飛躍的に大きくなっています。 すなわち、 昭和23年ころ、 住宅の総数は世帯総数より著しく少なく、 住宅供給量は圧倒的に不足していましたが、 その後、 日本経済の高度成長とともに、 住宅供給量は増加していき、 昭和43年ころ、 住宅の総数は世帯総数より多くなり、 平成5年ころの住宅の空屋率は9%台となり、 住宅供給量は十分なものとなりました。 しかしこのような経済情勢の変化にもかかわらず、 正当事由制度が従前のまま残っているため、 良質な借家の供給を阻害する原因となり、 健全な賃貸住宅市場が形成されず我が国の賃貸住宅市場を歪める事態に陥っております。
具体的には、 平成5年度における日本の賃貸住宅の平均床面積は45㎡であり、 イギリス88㎡、 アメリカ111㎡、 ドイツ75㎡、 フランス77㎡と、 欧米先進諸国に比べて著しく狭いものとなっております。 また、 住宅規模に関し、 床面積が40㎡未満の借家の比率について欧米先進諸国と比較してみると、 フランス0.6%、 ドイツ3.1%、 アメリカ0.0%であるのに比べて、 日本は48.4%と約半数の比率となっています。 他方、 床面積が80㎡以上の借家の比率を比べますと、 日本は7%にすぎないのに対し、 フランス50%、 ドイツ40%、 アメリカ70%と欧米先進諸国の借家の多数を占めます。 このように日本の賃貸住宅は極めて狭く、 小規模なものです。
これは、 正当事由による解約の制限があるため、 家主は借主の自主的な退去が期待しにくい借家をさけて、 早期の退去が期待できるワンルームマンションなどの小規模な借家を志向したものと考えられます。
また、 正当事由の補完として機能する立退料の高額化のリスクを事前に回避するため、 家主は新規の借家契約に際し、 あらかじめ権利金や高額な家賃という形で、 借主から立退料相当分を確保しようとする傾向にあり、 家賃、 権利金が高騰し、 これが新規の借主にとって負担となっています。 このため、 低所得者など経済的弱者が新しく住宅を借りるのが極めて難しいのが現状です。
さらに、 正当事由による解約の制限により、 既存の借家契約の借主は強力に保護されているため、 家主は老朽化した借家の建て替えの目的であっても、 借主に対し明渡しを求めることは困難です。 そのため、 借家が老朽化しても家主は建て替え、 修繕をすることができなくなり、 極めて古く危険な借家が多数存在するようになりました。 既存の借家人を必要以上に保護するために生じた矛盾といえます。 先の阪神大震災において、 多くの老朽化した借家が倒壊して、 多数の借家人が犠牲になるなどの悲劇もおきています。