⑴
製造物責任法には、被害者側に過失がある場合に、製造業者等が発生した損害の全部を補償しなければならないか否かについては、特別の規定を置いておりません。
立法過程では、過失相殺について、被害者保護の観点から被害者に重過失がある場合のみに制限すべきとする意見もあり、消費者団体や弁護士団体はこの立場をとってきました。
しかし、(a)不法行為法における過失相殺自体が現在の司法制度の下で裁判官の裁量に基づくものであること、(b)重過失に限るとすると重過失の有無が新たな争点となり、迅速な被害者救済の妨げになりかねないことから、過失相殺を重過失に限る必要はないとの国民生活審議会の報告もあり、結局、その意見は採用されませんでした。
このような経緯で、過失相殺については民法の原則に従うことになりました(製造物責任法6条)。
立法過程では、過失相殺について、被害者保護の観点から被害者に重過失がある場合のみに制限すべきとする意見もあり、消費者団体や弁護士団体はこの立場をとってきました。
しかし、(a)不法行為法における過失相殺自体が現在の司法制度の下で裁判官の裁量に基づくものであること、(b)重過失に限るとすると重過失の有無が新たな争点となり、迅速な被害者救済の妨げになりかねないことから、過失相殺を重過失に限る必要はないとの国民生活審議会の報告もあり、結局、その意見は採用されませんでした。
このような経緯で、過失相殺については民法の原則に従うことになりました(製造物責任法6条)。
⑵
民法における過失相殺
民法722条2項は、次のように定めています。
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」
本条は、公平ないし信義則の観点から定められたもので、過失相殺と呼ばれるものです。被害者側の過失というときの「過失」とは、不法行為の成立要件としての過失と異なり、単なる不注意で足りるとされたり、被害者に責任能力がなくても、事理弁識能力で足りるとされたりするのは、過失相殺の理論の目的が、社会における損失の公平妥当な分担という点にあるからです。
したがって、過失相殺されるのは、被害者本人のみでなく、被害者側の過失も含まれると解されています。
ところで、近時最高裁判所は、「過失」に当たらない被害者側の事情についても、過失相殺の理論を使って損害の公平な分担を図ろうという姿勢を示しています。
すなわち、
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」
本条は、公平ないし信義則の観点から定められたもので、過失相殺と呼ばれるものです。被害者側の過失というときの「過失」とは、不法行為の成立要件としての過失と異なり、単なる不注意で足りるとされたり、被害者に責任能力がなくても、事理弁識能力で足りるとされたりするのは、過失相殺の理論の目的が、社会における損失の公平妥当な分担という点にあるからです。
したがって、過失相殺されるのは、被害者本人のみでなく、被害者側の過失も含まれると解されています。
ところで、近時最高裁判所は、「過失」に当たらない被害者側の事情についても、過失相殺の理論を使って損害の公平な分担を図ろうという姿勢を示しています。
すなわち、
(イ)
身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害賠償額を定めるにつき、本条2項を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる(最判昭63.4.21 民集42巻4号243頁)。
(ロ)
被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、本条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができる。(最判平4.6.25 民集46巻4号400頁)。
⑶
無過失責任と過失相殺
製造物責任は無過失責任とされておりますので、加害者の過失は問題とされません。そこで、被害者がその無過失責任としての製造物責任を追及する際、単純に製造物責任法6条の規定によって民法の過失相殺を適用できるかという問題があります。しかし、加害者が無過失責任を負わされるような場合(例えば、民法717条1項但書)でも、被害者に過失があれば、損害の算定の際、その過失は斟酌されると解されていることや、近時の前記裁判実務の傾向からいって、過失相殺の理論が製造物責任にも適用されることは間違いありません。さらに、単に被害者の過失のみならず、損害に寄与する行為も考慮したうえで、当事者間の公平を保持していくものと思われます。
したがって、結論として、被害者側の行為が損害の発生に寄与している場合、製造業者等の責任は減免されるといえます。
もっとも、加害者に無過失責任を認めることは、被害者の過失の比重を少なくすると考えられますので、理論的にみて被害者の過失が考慮される程度は低くなるといえます。
そこで、加害者の過失でなく、製造品等の「欠陥」に責任の根拠を求める製造物責任においては、一般論として被害者側の過失が斟酌される程度は、通常の不法行為の場合より低くなると考えられます(製造物責任が認定され、過失相殺が認められた事例として、東京高判平13.4.12 判時1773号45頁、東京高判平14.10.31、東京高判平16.10.12 判時1912号20頁、、名古屋高判平成19.7.18 判タ1251号333頁、鹿児島地判平20.5.20 判時2015号116頁、名古屋高判平21.2.26、東京地判平21.8.7 判タ1346号225頁。過失相殺が否定された事例として、仙台地判平13.4.26 判時1754号138頁、札幌地判平14.11.22 判時1824号90頁、奈良地判平15.10.8 判時1840号49頁、岡山地判平17.10.26、仙台高判平22.4.22、)。
したがって、結論として、被害者側の行為が損害の発生に寄与している場合、製造業者等の責任は減免されるといえます。
もっとも、加害者に無過失責任を認めることは、被害者の過失の比重を少なくすると考えられますので、理論的にみて被害者の過失が考慮される程度は低くなるといえます。
そこで、加害者の過失でなく、製造品等の「欠陥」に責任の根拠を求める製造物責任においては、一般論として被害者側の過失が斟酌される程度は、通常の不法行為の場合より低くなると考えられます(製造物責任が認定され、過失相殺が認められた事例として、東京高判平13.4.12 判時1773号45頁、東京高判平14.10.31、東京高判平16.10.12 判時1912号20頁、、名古屋高判平成19.7.18 判タ1251号333頁、鹿児島地判平20.5.20 判時2015号116頁、名古屋高判平21.2.26、東京地判平21.8.7 判タ1346号225頁。過失相殺が否定された事例として、仙台地判平13.4.26 判時1754号138頁、札幌地判平14.11.22 判時1824号90頁、奈良地判平15.10.8 判時1840号49頁、岡山地判平17.10.26、仙台高判平22.4.22、)。
⑷
外国の立法例
(イ)
アメリカ
アメリカでは各州によって扱いが異なりますが、以下に説明します何らかの概念(理論)を採用することで、製造業者等と損害の発生に寄与した被害者との間における損害の公平な分担を図っています。
(a)
寄与過失(ジョージア州、ケンタッキー州など一部の州)
寄与過失とは、被害者側に損害に寄与する過失が存在する場合、その被害者は加害者に対し、一切の損害賠償請求を許されないとする理論です。
この理論によると、被害者側にわずかでも寄与過失があると認定されれば、一切の損害賠償請求が否定されますので、被害者に酷な結果となります。
この理論によると、被害者側にわずかでも寄与過失があると認定されれば、一切の損害賠償請求が否定されますので、被害者に酷な結果となります。
(b)
比較過失(フロリダ州、ニューヨーク州など多数の州)
比較過失とは、寄与過失の理論の不合理な結果を回避すべく考えられた理論で、被害者側に損害に寄与する過失が存在する場合、その過失の程度に応じて損害賠償額を減額するという理論です。
この理論は、さらに細分化されており、過失割合に応じて損害額を減額するというもの(純比較過失方式)や、被害者側の過失が製造業者等の過失を上回れば、一切の損害賠償請求はできない(同等ないし下回る場合は、純比較過失方式と同じ)とするものや、被害者側の過失が製造業者等の過失と同等ないし上回れば、一切の損害賠償請求はできない(下回る場合は純比較過失方式と同じ)とするものなどがあります。
この理論は、さらに細分化されており、過失割合に応じて損害額を減額するというもの(純比較過失方式)や、被害者側の過失が製造業者等の過失を上回れば、一切の損害賠償請求はできない(同等ないし下回る場合は、純比較過失方式と同じ)とするものや、被害者側の過失が製造業者等の過失と同等ないし上回れば、一切の損害賠償請求はできない(下回る場合は純比較過失方式と同じ)とするものなどがあります。
(c)
危険引受(ノースカロライナ州、テネシー州など)
危険引受という理論は、被害者側の過失によってではなく、被害者側が自己の行為に伴う危険を認識したうえで、自らの意思でその危険を引き受けた結果、発生した損害について、その程度いかんを問わず、一切の賠償請求ができないとする理論です(もっともカリフォルニア州やワシントン州のように、寄与度に応じて賠償額を減額しようという立場の州もあります)。
(d)
誤用
誤用とは、製造業者等の意図ないし予期しない方法の使用によって、損害が発生した場合、製造業者等は賠償責任を免れるという理論です。
この理論は、当該製造物の使用者以外の第三者が損害を受けたときに製造業者等にとって有用な理論です。
寄与過失や危険引受けの理論では、製造業者等は損害を被った無過失の第三者に対抗できませんが、この理論は、当該製造物の当該使用について予見可能性を製造業者等が有していたか否かだけによって、責任の有無が決せられます。
この理論は、当該製造物の使用者以外の第三者が損害を受けたときに製造業者等にとって有用な理論です。
寄与過失や危険引受けの理論では、製造業者等は損害を被った無過失の第三者に対抗できませんが、この理論は、当該製造物の当該使用について予見可能性を製造業者等が有していたか否かだけによって、責任の有無が決せられます。
(e)
改造
改造とは、製造物が製造業者等の手を離れた後に、当該製造物に改造が加えられた場合に、製造業者等が製造物責任を免れるという理論です。
(ロ)
EC指令
被害者側の行為が製造業者等の責任に影響を及ぼすかについてEC指令は次のような規定をおいて、被害者側の行為が製造業者等の責任を決めるうえで考慮されるものとしています。
第8条2
すべての事情を考慮した結果、製造物の欠陥及び被害者又は被害者が責任を負うべき者の過失(fault)の競合によって損害が生じた場合においては、製造者の責任を軽減又は否定することができる。
製造物責任法における規定