1
土地賃貸借契約の終了
(4)
(イ)
土地の必要性
Q:
私は土地を賃貸しているのですが、その土地を使う必要が生じたので、次回の賃貸借契約の更新を拒絶したいと考えています。ところで土地の賃貸借において、賃貸借契約の更新を拒絶するためには正当な事由が必要であると聞きました。私のように、自己使用の必要性から、土地の賃貸借契約の更新拒絶をした場合、正当な事由として認められるでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
自己使用の必要正当事由の有無は上記の要素を総合的に考慮して判断されますが、一般に自己使用の必要性は最も重視される判断要素と考えられており、自己使用の必要性がある場合には正当事由を肯定する方向に大きく傾きます。
これに対して正当事由を否定する賃借人側の事情としては賃借人が高齢であるとか病身であるなどです。もちろん、自己使用以外の要素も具体的事情として考慮されます。
そして、貸主側としては明渡料の提供(同条の「財産上の給付の申出」)によって、自己の正当事由を補うことができます。
以上より、更新拒絶に正当事由が認められるか否かは、ケース・バイ・ケースになりますが、自己使用の必要性が認められる本件においては、正当事由は認められやすいと思われます。
これに対して正当事由を否定する賃借人側の事情としては賃借人が高齢であるとか病身であるなどです。もちろん、自己使用以外の要素も具体的事情として考慮されます。
そして、貸主側としては明渡料の提供(同条の「財産上の給付の申出」)によって、自己の正当事由を補うことができます。
以上より、更新拒絶に正当事由が認められるか否かは、ケース・バイ・ケースになりますが、自己使用の必要性が認められる本件においては、正当事由は認められやすいと思われます。
(ロ)
土地の有効利用計画
Q:
私は土地を賃貸している地主ですが、周辺の所有地も使ってマンションを新しく建設しようと考えています。借地人との更新を拒絶するには正当事由が必要と聞いていますが、土地の有効利用の必要性という事情はどのように考慮されるのでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画がある場合においては、その他の事情と合わせて、賃貸人の更新拒絶の意思表示に正当事由が認められる可能性は高いと思われます。
対象土地が都市計画上容積率500%の防火地域内にあって、その周辺では近時土地利用の高度化が進み、中高層のマンション等が建てられているという状況で、貸主は対象土地を利用して五階建マンションの建築を計画し、また、対象土地上の建物は使用に耐えないというほどではないが、全体として相当に疲弊した状態にあるというケースで、裁判所は、「原告側(貸主)の本件土地のより高度な利用を図りたいとの事情は、その地域性からしても社会経済上の利益に合致するものというべきところ、被告側(賃借人)には現状を維持することにそう大きな利益があるとは言い難い情況にあるものといわざるを得ず、右双方の事情を彼此勘案するときは、老境にある被告の本件建物から離れ難いとの心境はそれとして理解し得ないではないが、原告側の社会経済上の利益にその座を譲らざるを得ないものというべき」として、地域性を重視して土地の高度な利用を優先させて明渡請求を認容した判例(東京地判昭61.1.28判時1208号95頁)など、有効利用の必要性を理由に明渡請求を認めた判例は多数あります。
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画がある場合においては、その他の事情と合わせて、賃貸人の更新拒絶の意思表示に正当事由が認められる可能性は高いと思われます。
対象土地が都市計画上容積率500%の防火地域内にあって、その周辺では近時土地利用の高度化が進み、中高層のマンション等が建てられているという状況で、貸主は対象土地を利用して五階建マンションの建築を計画し、また、対象土地上の建物は使用に耐えないというほどではないが、全体として相当に疲弊した状態にあるというケースで、裁判所は、「原告側(貸主)の本件土地のより高度な利用を図りたいとの事情は、その地域性からしても社会経済上の利益に合致するものというべきところ、被告側(賃借人)には現状を維持することにそう大きな利益があるとは言い難い情況にあるものといわざるを得ず、右双方の事情を彼此勘案するときは、老境にある被告の本件建物から離れ難いとの心境はそれとして理解し得ないではないが、原告側の社会経済上の利益にその座を譲らざるを得ないものというべき」として、地域性を重視して土地の高度な利用を優先させて明渡請求を認容した判例(東京地判昭61.1.28判時1208号95頁)など、有効利用の必要性を理由に明渡請求を認めた判例は多数あります。
(ハ)
土地の利用状況
Q:
土地賃貸借契約において、借地人との更新を拒絶する際に必要となる正当事由のうち、「土地の利用状況」とは、具体的にはいかなる事情のことでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
土地の利用状況
正当事由の「土地の利用状況」の判断事情としては、下記(1)から(5)等があります。
正当事由の「土地の利用状況」の判断事情としては、下記(1)から(5)等があります。
(1)
借地上の建物の存否
(2)
借地上の建物の種類、用途(居住用建物か事業用建物か等)
(3)
借地上の建物の構造、規模(建物が低層か高層か)
(4)
借地上の建物の面積(土地面積のなかで建物の建て坪がどの位占めているか)
(5)
建築基準法等の違反の有無
(ニ)
建物の老朽化
Q:
私は土地を賃貸している地主ですが、借地上の建物は築100年を超え相当老朽化しています。借地人との更新を拒絶するには正当事由が必要と聞いていますが、借地上の建物の老朽化という事情はどのように考慮されるのでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
借地上の建物の老朽化
借地上の建物が老朽化は、更新拒絶の正当事由の一事情となります。
特に、建物の老朽化がひどく倒壊の恐れが強いような場合には、正当事由は認められやすいと思われます。
例えば、借地上に木造の建物が存在しており、その建物は木造バラック造りで当初賃貸期限の終了するころには朽廃する程度のものであったというケースで、裁判所は「被告は借地の始めにおいてその期間を20年と予想していたものであり、然も借地期間中の増改築を別にして考えると、地上の建物は当初の借地期限のころに概ね朽廃する運命にあるとして、明渡料として借地権価格の約1.5割に相当する金150万円の支払いを条件に正当事由を認めました(大阪地判昭50.3.28判時785号90頁)。
借地上の建物が老朽化は、更新拒絶の正当事由の一事情となります。
特に、建物の老朽化がひどく倒壊の恐れが強いような場合には、正当事由は認められやすいと思われます。
例えば、借地上に木造の建物が存在しており、その建物は木造バラック造りで当初賃貸期限の終了するころには朽廃する程度のものであったというケースで、裁判所は「被告は借地の始めにおいてその期間を20年と予想していたものであり、然も借地期間中の増改築を別にして考えると、地上の建物は当初の借地期限のころに概ね朽廃する運命にあるとして、明渡料として借地権価格の約1.5割に相当する金150万円の支払いを条件に正当事由を認めました(大阪地判昭50.3.28判時785号90頁)。
(ホ)
借地に関する従前の経過
Q:
土地賃貸借契約において、借地人との更新を拒絶する際に必要となる正当事由のうち、「借地に関する従前の経過」とは、具体的にはいかなる事情のことでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
借地に関する従前の経過
正当事由の「借地に関する従前の経過」の判断事情としては、下記(1)から(5)等があります。
正当事由の「借地に関する従前の経過」の判断事情としては、下記(1)から(5)等があります。
(1)
権利金、更新料等の支払いの有無
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
(2)
地権設定時から現在までの期間の長短
借地人が長期間借地を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
借地人が長期間借地を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
(3)
借地権設定時の事情
不法占拠が先行したり、借地人の懇願を断りきれずに貸したという事情は、正当事由のプラス要素となります。
不法占拠が先行したり、借地人の懇願を断りきれずに貸したという事情は、正当事由のプラス要素となります。
(4)
賃料額の相当性
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
(5)
貸主に対する嫌がらせ等の不信行為
賃借人の不法行為は、正当事由のプラス要素になります。
賃借人の不法行為は、正当事由のプラス要素になります。
(ヘ)
財産上の給付
Q:
土地賃貸借契約において、借地人との更新を拒絶する際に必要となる正当事由のうち、「財産上の給付」とは、具体的にはいかなる事情のことでしょうか?
A:
1
正当事由の有無の判断
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
正当事由は、下記(1)から(4)等から判断されます。
(1)
借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情(自己使用の必要性)
(2)
借地に関する従前の経過
(3)
土地の利用状況
(4)
借地権設定者が土地明け渡し後の条件として又は土地の明け渡しと引換えに借地権に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
2
財産上の給付
正当事由の「財産上の給付」の判断事情としては、主に下記(1)及び(2)があります。
正当事由の「財産上の給付」の判断事情としては、主に下記(1)及び(2)があります。
(1)
明渡料の提供
(2)
代替土地、建物の提供
(ト)
明渡料
Q:
土地賃貸借契約において、借地人との更新を拒絶する際に必要となる正当事由「財産上の給付」のうちの明渡料とは、いかなるもののことでしょうか?
A:
1
明渡料の性格
他の正当事由要素があるものの、それだけでは正当事由として十分ではないという場合に、明渡料を提供することによって正当事由を具備させることができます。
すなわち、この意味で、明渡料の提供は、正当事由の補完事由という性格を持ちます。
他の正当事由要素があるものの、それだけでは正当事由として十分ではないという場合に、明渡料を提供することによって正当事由を具備させることができます。
すなわち、この意味で、明渡料の提供は、正当事由の補完事由という性格を持ちます。
2
明渡料の算定方法
明渡料の算定方法は、事案ごとにかならずしも同じではありませんが、更地価格に借地権割合を乗じた借地権価格を基準に正当事由の充足割合を考慮して算定するという考え方が合理的です。
具体的設例で説明しますと、次のとおりです。
(具体的設例)
(計算)
*1 借地権割合
*2 正当事由が不足している割合
明渡料の算定方法は、事案ごとにかならずしも同じではありませんが、更地価格に借地権割合を乗じた借地権価格を基準に正当事由の充足割合を考慮して算定するという考え方が合理的です。
具体的設例で説明しますと、次のとおりです。
(具体的設例)
更地価格が25万円/㎡する100㎡の貸地の明け渡しを求めるにつき、貸主側の正当事由が70%備わっている場合の明渡料は、450万円と一応試算することができます。
(計算)
*1 借地権割合
*2 正当事由が不足している割合
正当事由について