傷害による慰謝料、近親者の慰謝料

交通事故損害賠償請求ガイド

交通事故が発生したときの措置、損害賠償責任、損害賠償の範囲、遅延損害金と時効、自動車保険、紛争の解決方法、刑事責任という7つの主題について、交通事故損害賠償請求のQ&Aをご紹介します。

3

損害賠償の範囲のQ&A

(4)

慰謝料

(ロ)

傷害による慰謝料

Q:
自動車事故により顔面など外貌に大きな傷跡が残ったような場合、どの程度の慰謝料を請求できますか?
A:
1.
女子の外貌醜状
女子について、人目に触れる可能性のある身体の部位(外貌)、特に、顔面に大きな傷跡(醜状)が残った場合には、男子の場合に比べて、就職・結婚等の社会生活における悪影響が否定できず、精神的苦痛がより大きいことから、慰謝料は男子に比較して高く評価されています。また、未婚か既婚か、未成年か成人か老人か等によっても慰謝料は異なり、一般には、既婚より未婚、老年より若年の方が慰謝料が高くなります。
2.
後遺症等級認定基準
(1)
「外貌に著しい醜状を残すもの」の場合、女子は後遺症等級7級、自動車損害賠償責任保険金額1051万円、男子は後遺傷害等級12級、保険金額224万円とされ、単なる「外貌に醜状を残すもの」の場合、女子は後遺症等級12級、保険金額224万円、男子は後遺症等級14級、保険金額75万円とされます。
(2)
そして、自動車損害賠償責任保険の認定基準において、「著しい醜状」とは、イ 手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ)以上の傷跡または頭蓋骨の欠損、ロ 顔面部では、鶏卵大面以上の傷跡、長さ5センチメートル以上の線状痕または10円銅貨大以上の組織陥没、ハ 頚部では、手のひら大以上の傷跡等で、いずれも人目につく程度以上のものとされています。
また、「単なる外貌の醜状」とは、
イ頭部では、鶏卵大面以上の傷跡または頭蓋骨の欠損、
ロ顔面部では、10円銅貨大以上の傷跡または長さ3センチメートル以上の線状痕、
ハ頚部では、鶏卵大面以上の傷跡等で、いずれも人目につく程度以上のものとされています。
3.
女子の外貌醜状の慰謝料
実務上、後遺症等級が7級の場合で900万円から1100万円、12級の場合で250万円~300万円との一応の基準に沿って算定されています。もっとも、12級には該当するものの、「著しい醜状」にはあたらない場合には、醜状の程度によって12級の慰謝料に加算するのが妥当です。
4.
外貌醜状による逸失利益
(1)
外貌醜状のために就職・転職等において不利益を被ることがあることは否めないため、外貌醜状による労働能力の一部喪失を肯定し、逸失利益の賠償を認める裁判例があります。
(2)
女子の場合、イ 6歳で後遺症等級7級の場合に、18歳から67歳まで40%の労働能力喪失を認めた裁判例、ロ 20歳の短大生で後遺症等級12級の場合に、20歳から25年間の15%の労働能力喪失を認めた裁判例、ハ 60歳のマンション管理人で後遺症等級7級の場合に、11年間の25%の労働能力喪失を認めた裁判例、などがあります。
(3)
男子の場合は、女子に比べて、逸失利益を認めた例は少ないですが、
イ5歳で後遺症等級12級の場合に、18歳から67歳まで10%の労働能力喪失を認めた裁判例、
ロ後遺症等級12級の会社員(営業担当)の場合に、10年間の10%の労働能力喪失を認めた裁判例、
などがあります。
(ハ)

被害者が負傷した場合の近親者の慰謝料

Q:
自動車事故の被害者が負傷した場合、その被害者の近親者は慰謝料を請求できますか?
A:
1.
近親者固有の慰謝料請求
自動車事故の被害者が死亡した場合には、法律の条文上、被害者の父母、配偶者および子どもは、慰謝料を請求することができると規定されています(民法711条)。これに対して、被害者が負傷したにとどまる場合に、被害者の近親者が慰謝料を請求しうるかについては法律上規定がありません。この点につき、判例は、近親者が、被害者が死亡した場合と同程度の、あるいは、死亡した場合に比べて著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたときに限り、近親者固有の慰謝料を請求できるとしています。
2.
「死亡した場合と同程度、あるいは、それと比べて著しく劣らない程度」とは
どのような場合が「死亡した場合と同程度、あるいは、それと比べて著しく劣らない程度」にあたるかにつき、次のような裁判例があります。
(1)
14歳男児が重度意識障害、四肢完全麻痺となり、植物状態となった場合につき、両親に固有の慰謝料として1人あたり300万円、合計600万円の賠償が認められた裁判例
(2)
36歳男性が外傷性脊髄麻痺、頭部外傷後遺症により両下肢完全麻痺、右上肢各関節の運動障害、直腸機能等により後遺症等級1級とされた場合につき、妻に固有の慰謝料として300万円、子どもに固有の慰謝料として150万円の賠償が認められた裁判例
3.
慰謝料額
近親者の慰謝料額は、裁判実務上、被害者本人の慰謝料のおよそ20%〜30%とされることが多いようです。

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