第2
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あらまし
反対株主の株式買取請求権は、一定の会社の行為に反対する株主が会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる権利です。株主が自らの反対する行為を会社が行う場合には、株式を他に譲渡して会社から離脱することで投下資本の回収を図ることができますが、非上場会社の株主の場合には、事実上、株式の買受人を見つけることに困難を伴います。反対株主の株式買取請求は、会社の行為の当・不当を問わず行使することができますので、株式を他に譲渡して会社から離脱することが困難な非上場会社において存在意義が大きいといえます。反対株主から株式買取請求を受けた会社は、反対株主の有する株式を公正な価格で買い取る義務が生じることになり、会社と反対株主との間で買取価格について協議することになります。
協議が整わなかった場合には、裁判所が商事非訟手続によって買取価格を決定する手続が設けられ、公正な価格での買取を制度的に保障しています。
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手続の全体の流れ
(1)
株式買取請求ができる場合
株式買取請求は、次の行為を行う会社の株主に認められます。
(イ)
発行する全部の株式を譲渡制限株式とする定款変更、種類株式発行会社において、ある種類株式を譲渡制限株式または全部取得条項付株式とする定款変更(以下これらを合わせて「一定内容の定款変更」といいます)を行う場合(会社法116条1項1号、2号)
(ロ)
定款で種類株主総会の決議が不要とされている行為で種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合(会社法116条1項3号)
(ハ)
事業全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業全部の譲受け、事業の全部の賃貸・事業の全部の経営の委任・他人と事業上の損益の全部を共通にする契約及びこれらに準ずる契約の締結・変更・解約(以下これらをあわせて「事業譲渡等」といいます)を行う場合(会社法469条1項)
(ニ)
吸収合併、吸収分割、株式交換(以下これらをあわせて「吸収合併等」といいます)を行う消滅会社等(会社法785条1項)
(ホ)
吸収合併等を行う存続会社等(会社法797条1項)
(へ)
新設合併、新設分割、株式移転(以下これらをあわせて「新設合併等」といいます)の消滅会社等(会社法806条1項)
(2)
株式買取請求ができる株主
株式買取請求権を行使するためには、株主総会に先立って会社の行為に反対する旨を会社に対して通知し、かつ、株主総会において当該事項に反対する必要があります(会社法116条2項1号イ、469条2項1号イ、785条2項1号イ、797条2項1号イ、806条2項1号)。なお、株主総会・種類株主総会で議決権を行使することができない株主には、株主総会・種類株主総会に先立って反対する旨を会社に通知する必要はありません(会社法116条2項1号ロ、469条2項1号ロ、785条2項1号ロ、797条2項1号ロ、806条2項2号)。また、株主総会・種類株主総会の決議が不要とされている場合にも会社に対して反対通知をする必要はありません(会社法116条2項2号、469条2項2号、785条2項2号、797条2項2号)。
(3)
会社による通知・公告
一定の内容の定款変更・種類株主総会の決議が不要とされ種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為・事業譲渡等・吸収合併等を行う場合には、会社は効力発生日の20日前までに、それらを行う旨を株主に通知しなければなりません(会社法116条3項、469条3項、785条3項、797条3項)。新設合併等を行う場合には、新設合併等を承認する株主総会の決議の日から2週間以内に、新設合併等を行う旨を株主に通知しなければなりません(806条3項)。なお、前段の通知は公告をもって代えることができます(会社法116条4項、806条4項)。但し、事業譲渡等・吸収合併等の場合には、事業譲渡等を行う会社・消滅会社等・存続会社等が公開会社(会社法2条5項)である場合、事業譲渡等・吸収合併等の株主総会の承認を受けた場合でなければ公告をもって通知に代えることはできません(会社法469条4項、785条4項、797条4項)。
(4)
反対株主の株式買取請求
株式買取請求をする株主は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間(新設合併等の場合は、会社が通知・公告をした日から20日以内)に、株式買取請求に係る株式の種類・数を明らかにして株式買取請求をしなければなりません(会社法116条5項、469条5項、785条5項、797条5項、806条5項)。株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得なければ、株式買取請求を撤回することができなくなります(会社法116条6項、469条6項、785条6項、797条6項、806条6項)。但し、効力発生日(新設合併等の場合においては設立会社の成立の日)から60日以内に価格決定の申立がない場合には、株主はいつでも株式買取請求を撤回することができます(会社法117条3項、470条3項、786条3項、798条3項、807条3項)。
(5)
反対株主の株式買取請求手続と株式の評価