損害賠償
製造業者から見た製造物責任法
第1 はじめに
ある製品に欠陥があり,それが原因で消費者に損害が発生した場合,消費者は多くの場合,当該製品の売主や製品の製造業者に対する法的責任の追及を検討します。
消費者は従前から,製品の製造業者に対し,不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことが可能でしたが,その請求においては,消費者側が製造業者の過失を立証しなければならず,消費者の負担が重いという問題が存在していました。その後,平成6年に製造物責任法が制定されたことにより,製造業者の「過失」ではなく,製品の「欠陥」の存在を立証すれば損害賠償請求を行うことが可能となったため,消費者は,製造物の欠陥に起因する企業の法的責任を追及することが従前に比較して容易になりました。
このような状況下において,製品の製造業者の立場で法的リスクを回避するために,どのような対策・対応をすべきかについて説明します。
第2 製造物責任の概要
製造物責任法第3条は,製造物責任につき,「製造業者等は,その製造,加工,輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって,その引き渡したものの欠陥により他人の生命,身体又は財産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。・・・」と定めています。すなわち,製造業者等に製造物責任が生じるためには,製造物責任の客体たる製造物に「欠陥」が存在し,これによって製造物の消費者,使用者に「損害」が生じ,かつ「欠陥」と「損害」との間に因果関係が存在することが必要です。
第3 製造物責任対策
製造物責任法の存在を前提に,製造業者等がその法的リスクを回避するためには,以下のような対策を講じる必要があります。
1 製品事故の発生を防止するための対策
(1) 製造物責任を回避するためには,製品の欠陥をなくすこと及び製品の欠陥に基づく事故の発生を防止することが何よりも重要となります。したがって,製品事故が発生する前に,製品の安全性を高めるための対策を講じる必要があります。
(2) すなわち,①設計段階においては,安全性に配慮した設計を行う必要があり,②製造段階においては,製品に欠陥が発生しないようにする必要があり,③販売の段階においては,製品の適切な使用方法を説明し,かつ,事故の発生につながるおそれのある危険な使用を行わないように警告(取扱説明書への記載,警告ラベルの作成等)を行う必要があります。
上記の点を実現するためには,まずは社内で製造物責任対策を推進する組織・体制を整備することが重要であり,その組織を中心に,各部門からの情報の収集・集約・管理,法規や規制についての最新の情報の収集,各種マニュアルの作成,社員教育等を行うことになります。そして,これらについては,製造物責任法の分野に精通した弁護士と連携して行うことが望ましいと言えます。
2 製品事故が発生した場合の対策・対応
(1) 上記のような対策をする一方で,仮に製品事故が発生してしまった場合に,製造業者等に法的責任がないにもかかわらず法的責任を負ってしまうこと,又は実際の法的責任以上の過大な法的責任を負ってしまうことを防止するため,消費者からの法的責任の追及への対策を講じる必要があります。
(2) すなわち,①製品事故が発生した場合の製品の回収システム(リコール)や消費者からの苦情処理のシステムの構築,そのための社員教育,マニュアルの作成等が必要となります。これらは,事故が発生した後の手続に関するものではありますが,対策自体は事故の発生前から行わなければなりません。
また,②消費者から訴訟を提起された場合の対策も必要です。訴訟の遂行自体は,弁護士に依頼することになるため,日頃から,製造物責任の分野に精通した弁護士を顧問弁護士とし,助言,指導を受けることが重要です。その上で,訴訟になった場合に証拠として提出できる文書,製品サンプル,実験記録等を作成し,保存しておく必要があります(そのための組織の整備及び社員教育も必要となります。)。
さらに,③訴訟を経た場合でも,製造物責任を完全に回避することは難しいことから,この場合のリスクを減らすためにPL保険に加入することも検討すべきです。
3 訴訟となった場合の反論の要点
(1) 訴訟が提起された場合には,消費者側で,①製造物に「欠陥」が存在すること,②これによって「損害」が生じたこと,③「欠陥」と「損害」との間に因果関係が存在することを立証する必要がありますので,消費者から製造物責任を追及された製造業者等としては,それぞれの点につき適切な反論をする必要があります。
(2) 欠陥について
ア 製造物責任法における「欠陥」とは,「当該製造物の特性,その通常予見される使用形態,その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して,当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」(製造物責任法2条2項)と定義されています。なお,「欠陥」は,①設計上の欠陥,②製造上の欠陥,③指示・警告上の欠陥に分類されます。
イ 消費者は,安全性に欠けた製造物に「欠陥」があることを主張・立証すれば,製造業者等に過失があることを主張・立証しなくとも,製造業者等に対し製造物責任を負わせることができます。
したがって,製造業者等としては,「製造物の特性」(考慮事情:製造物の表示,製造物の効用・有用性,価格対効果,被害発生の蓋然性とその程度,製造物の通常使用期間・耐用期間等),「通常予見される使用形態」(考慮事情:正常な使用方法であったか,正常な使用方法ではないが製造業者等において予見することが可能な使用方法であったか,製造業者等において予見することが困難な使用方法(誤使用)であったか),「当該製造物を引き渡した時期」(考慮事情:製造物が引き渡された時期,技術的実現可能性),「その他の当該製造物に係る事情」を踏まえ,製品が「通常有すべき安全性」を欠いていたとは言えないことを合理的に主張していく必要があります。
この点,消費者側で事故に至る機序の特定が困難な場合に,消費者側が「通常の用法で使用していたにもかかわらず被害が生じた」ことを根拠に「欠陥」が存在したと主張されることが多いですが,この場合,製造業者側としては,使用者の誤使用(通常の用法で使用しなかったこと)や他の原因が介在したために損害が発生したという点を主張していく必要があります。
(3) 損害,因果関係について
製造物責任法は,「他人の生命,身体又は財産」を侵害したときに損害賠償責任が発生すると定めていますが,「賠償されるべき損害の範囲」及び「因果関係」に関する規定は存在しないことから,民法の不法行為の原則に従い(同法6条),相当因果関係の規定(民法416条)を類推適用することになります。したがって,製造業者等は,製品の欠陥により通常生ずる損害を賠償することを原則とし,例外的に,特別に生じた損害も製造業者等が予見すべきであった場合には賠償義務を負うことになります。
損害については,消費者から過大な請求がなされる可能性があるため,請求された損害の費目ごとに,その金額の妥当性・欠陥との因果関係等を精査し,実際の法的責任以上の過大な法的責任を負ってしまうことを防止する必要があります。
(5) 免責事由
製造物責任法は,次のとおり,製造業者等の免責事由を定めています。
製造業者等が,①当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては,当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと,または②当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において,その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ,かつ,その欠陥が生じたことにつき過失がないことを証明したときは,製造物責任を免れます。上記①は「開発危険の抗弁」と呼ばれています。ただし,これらの免責要件は,製造業者等にとって立証のハードルが高く,容易に認められるものではありません。
第4 最後に
以上のとおり,製品の製造業者は,製造物責任法による法的リスクを回避するために,製造物責任法の存在を前提とした対策を講じる必要があります。そのための社内体制の構築において,製造物責任の分野に精通した弁護士の助言・指導は有益となります。また,実際に訴訟等を提起されてしまった場合には,真に当該製品に欠陥があったのか,被害者の主張する損害額は妥当であるのか,欠陥と損害との間の因果関係は存在するのか等,合理的な反論をしていく上で弁護士によるサポートは必須となります。
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