損害賠償

損害賠償の種類とその違い

1.損害賠償とは

損害賠償制度は、特定の行為により他人に損害を与えた者に当該損害を賠償させる制度です。

2.損害賠償の種類

損害賠償には大きく分けて、(1)債務不履行に基づくものと、(2)不法行為に基づくものの2種類があります。

(1)債務不履行とは

債務不履行に基づく損害賠償とは、契約等に基づく債務を履行しなかったこと(債務不履行)により生じた損害の賠償を指します。

事例1(建物の火事)

Xさんは、Yさんに建物(価値1,000万円)を月6万円で貸していました。
Yさんは、建物の中で煙草を吸っていましたが、その煙草の火が原因と疑われる火事により、建物が滅失してしまいました。

以下の要件を満たす場合には、請求が認容されます。

ア 債務の存在

建物賃貸借契約に基づく建物(目的物)返還債務。

イ 債務の不履行

建物の滅失による建物返還債務の履行不能。

ウ 帰責事由

帰責事由とは、債務者の故意過失または信義則上これと同視すべき事由を指します。
過失とは、一定程度の注意を欠いたために債務不履行を生じるであろうことを認識しないことを指します。
事例1の場合、Yさんは、火事になると認識していたわけはないので、故意はありません。もっとも、煙草の火を始末するという注意を欠いたために火事が起こり、それを認識しなかっただけであれば、過失が認められます。

エ 因果関係のある損害

イにより滅失した建物の価値1,000万円。

(2)不法行為とは

不法行為に基づく損害賠償とは、加害者が被害者の権利を違法に侵害したことにより生じた損害の賠償を指します。

事例2(歩きスマホ)

Yさんは、スマホを見ながら歩いていたところ、Xさんにぶつかってしまいました。その衝撃でXさんは転んでしまい、全治2週間の怪我を負いました。Xさんは、治療費として病院に5万円を支払いました。

以下の要件を満たす場合には、請求が認容されます。

ア 故意、過失

基本的には債務不履行における帰責事由と同様の概念です。過失について、裁判例上は、その事実が生じるであろうということを不注意のために認識しない心理状態とされています。
事例2の場合、Yさんは誰かとぶつかると認識していたわけではないので、故意はありません。もっとも、一般的に、前方不注意で歩いていれば、誰かとぶつかり怪我をさせてしまうことは予見できます。Yさんにとって、そのような結果を予見できたにもかかわらず、スマホを見ながら歩き続けた不注意があるのであれば、過失が認められます。

イ 権利侵害

Yさんのぶつかる行為により、Xさんに怪我をさせたこと。

ウ 因果関係のある損害

イによるYさんの怪我の治療費5万円。
(その他慰謝料等も考えられますが、説明の便宜のため省略します。)

(1)債務不履行と(2)不法行為の基本的違い

(1)債務不履行が契約関係にある当事者間の問題であるのに対し、(2)不法行為は契約関係を必要としない当事者間の問題である点です。
ただし、(2)不法行為については、契約関係を「必要としない」だけであり、契約関係にある場合に請求できないわけではありません。すなわち、契約関係にある当事者間においては、(1)債務不履行に加え、(2)不法行為に基づく損害賠償請求もできることがあります。

3.損害賠償の種類による具体的な違い

主要な違いとしては、ア 消滅時効、除斥期間の違い、イ 帰責事由、故意過失の立証責任の違いがあります。
なお、ア 消滅時効、除斥期間について、平成29年6月2日公布の改正民法により新たなルールが設けられました。改正民法施行の前後にて考え方が異なるため、以下では(1)改正前民法の場合、(2)改正民法(現行民法)の場合に分けてご説明します。

(1)改正前民法の場合

ア 消滅時効、除斥期間の違い

消滅時効とは、ある権利が行使されない状態が継続した場合、債務者や加害者の主張(援用といいます。)によりその権利の消滅を認めることを指します。これに対して、除斥期間とは、簡単に言えば上記主張(援用)がなくとも自動的に権利が消滅する期間を指します。

  債務不履行の場合 不法行為の場合
消滅時効、除斥期間 権利を行使することができる時から10年間
※例外がありますが、ここでは省略します。
(1)被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間
(2)不法行為時から20年間

以下、事例1及び2の場合について検討します。

事例1(建物の火事)の場合

債務不履行の場合、建物が滅失した時から10年間経過すると、消滅時効が成立します。

事例2(歩きスマホ)の場合

不法行為の場合、XさんがYさんの氏名や住所を知り、損害が確定した時から3年間経過すると、消滅時効が成立します。また、Xさんが損害等を知らなかったとしても、事故の時から20年間経過すると除斥期間成立となります。

イ 帰責事由、故意過失の立証責任の違い

立証責任とは、訴訟上ある事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律行為の効果が認められないという一方当事者が負うべき不利益のことを指します。簡単に言えば、裁判上証拠が不十分な事実は、立証責任を負う人の不利に考えましょうというルールのことです。

  債務不履行の場合 不法行為の場合
帰責事由、故意過失の立証責任 債務者(請求者される側) 被害者(請求する側)

以下、事例1及び2の場合について検討します。

事例1(建物の火事)の場合

債務不履行の場合、Yさんが煙草の火をしっかり始末していたこと等を、Yさんにて立証しなければなりません。

事例2(歩きスマホ)の場合

不法行為の場合、Yさんに前方不注意があったこと等を、Xさんにて立証しなければなりません。

(2)改正民法(現行民法)の場合

  債務不履行の場合 不法行為の場合
消滅時効 (1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
(2)権利を行使することができる時から10年間
(1)損害及び加害者を知った時から3年間
(2)不法行為時から20年間
(3)生命身体の侵害に基づく不法行為の場合には、(1)に代え、損害及び加害者を知った時から5年間

以下、事例1及び2の場合について検討します。

事例1(建物の火事)の場合

債務不履行の場合、XさんがYさんの氏名や住所を知り、損害が確定した時から5年間経過すると、消滅時効が成立します。Xさんが損害等を知らなかったとしても、建物が滅失した時から10年間経過すると消滅時効が成立します。

事例2(歩きスマホ)の場合

不法行為の場合、身体の侵害のため、XさんがYさんの氏名や住所を知り、損害が確定した時から5年間経過すると、消滅時効が成立します。Xさんが損害等を知らなかったとしても、事故から20年間経過すると消滅時効が成立します。

4 まとめ

(1) あなたが請求する場合

相手と契約関係になければ不法行為を選択することになります。
もし相手と契約関係にあれば、基本的には不法行為及び債務不履行の両方の請求を行なっておくことが安全です。債務不履行だけで十分ではないかと思われるかもしれませんが、不法行為にも、債務不履行より早い段階から遅延損害金を請求し得る等のメリットがあるためです。
両方の請求を行なった上で、示談交渉や裁判上の主張立証をどのように進めるかについては、非常に多様な事情を考慮しなければならないため、まずは弁護士にご相談ください。

(2) あなたが請求される場合

相手の請求の根拠が債務不履行である場合、あなたから積極的に帰責事由の不存在を立証しなければなりません。
また、債務不履行か不法行為かを問わず、消滅時効については、あなたから計算し主張(援用)しなければ認められません。
いずれにせよ、一刻を争う事態であることが多いため、お早めに弁護士にご相談ください。

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