損害賠償
直接の加害者以外にも損害賠償請求できるケース
1.はじめに
原則的には、直接の加害者自身が損害賠償責任を負うのですが、直接の加害者が行方不明だったり、お金を持っていなかったりした場合には、一定の関係者等に請求できるかが問題となります。
今回は、直接の加害者以外に損害賠償責任を負わせることができるケースについてご説明します。
2.使用者責任
使用者責任とは、被用者(従業員等)がその事業の執行について加えた損害について、使用者(会社等)が責任を負うことを指します。
例えば、運送会社の運転手が、業務中、居眠り運転で交通事故を起こした場合、運転手のみではなく、運送会社も損害賠償責任を負うことがあります。この規定があることにより、仮に運転手に賠償金の支払能力がなくても、会社に請求することが可能となります。なお、使用者が被用者をしっかり監督していた場合等には責任を免れることができる旨の例外規定がありますが、使用者にて難しい立証を行なう必要があります。
3.監督者責任
監督者責任とは、責任能力がない者の行為が加えた損害について、監督義務者が責任を負うことを指します。例えば、7歳の子が喧嘩をして、相手に大けがを負わせた場合に、親権者が責任を負うことがあります。この場合の責任能力とは、自己の責任を弁識するに足りる知能を指し、具体的には12、3歳をボーダーラインとするというのが裁判例の傾向です。また、責任能力は未成年者に限らず、精神疾患、認知症等によって知能が低下している場合にも、責任能力がないと判断されることがあります。行為者自身に責任能力がない場合、無能力者への請求はできないことになります。しかし、それでは被害者の救済に不十分なため、その監督者に請求することが可能となります。
一方、「監督義務を怠らなかったとき又は義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、責任を負わない」とする規定があります。最近の例では、責任能力のない未成年者がサッカーボールを公道に蹴って他人に損害を加えた場合において、その親権者が監督義務者としての義務を怠らなかった(危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしていた)とされた事例があります(最高裁判所第1小法廷平成27年4月9日判決)。また監督義務者にあたるかについて争われることもあり、認知症の親が不法行為をした場合の同居の妻、長男について、監督義務者に準ずべき者に当たらないとした最高裁判例もあります(最高裁判所第3小法廷平成28年3月1日判決)。
4.共同不法行為
共同不法行為とは、数人が共同の不法行為によって他人に損害を与えた場合に、自分が直接加えた損害でなくとも、連帯責任を負わせる制度です。
例えば、一人が被害者を押さえつけている間にもう一人が殴った場合、二人は怪我による損害の賠償について、連帯責任を負います。また、A社又はB社の有毒物質により公害が生じた場合、いずれの会社の物質が原因か特定されない場合でも、両社が責任を負う可能性があります。
5.その他
その他にも、以下の規定が存在します。
(1)土地の工作物の瑕疵による損害について、工作物の占有者、所有者に責任を認める規定
(2)占有(管理)している動物による損害について、占有者の責任を認める規定
(3)請負人による損害について、注文者の責任を認める規定
(4)自動車の運転者による損害について、その自動車の所有者に責任を認める規定(自動車損害賠償保障法)
6.まとめ
以上のように、加害者本人ではない一定の関係者等への請求が認められるかどうかについては、様々な規定の要件を確認して判断していく必要があります。あなたが請求する場合でも請求されている場合でも、そのような要件の確認については難しい判断も伴いますので、お早めに弁護士にご相談ください。