会社支配権紛争
会社内部資料の調査方法(各種書類の閲覧謄写)
相続などをきっかけに非上場会社の株主になったものの、会社経営には全く関与していないため、その会社内部の状況が全く分からないというケースがあります。会社の業績が悪い場合、取締役に責任追及をするとしても、株式を売却するとしても、会社内部の資料を見て、会社の状況を把握しない限りは、対応策を見出すこともできません。
そこで今回は、会社内部の各種書類の調査方法についてご説明することとします。
1 株主総会議事録の閲覧・謄写請求
(1) 方法
株主は、会社の営業時間内は、いつでも、株主総会議事録の閲覧又は謄写の請求ができます。
(2) 会社の拒否事由
会社は原則として、株主からの株主総会議事録の閲覧・謄写請求を拒否することはできません。しかし、株主の株主総会議事録の閲覧・謄写請求に正当な目的がない場合は、会社は、権利濫用を理由に、株主総会議事録の閲覧・謄写請求を拒否できると解されています。(東京地判昭和49年10月1日)
2 取締役会議事録の閲覧・謄写請求
(1) 方法
株主は、その権利を行使するため必要があるときは、会社の営業時間内は、いつでも、取締役会議事録の閲覧又は謄写の請求ができます。(監査役設置会社又は委員会設置会社の場合は、裁判所の許可が必要です。)
(2) 会社の拒否事由
権利行使の必要性が認められない場合は、会社は、株主からの取締役会議事録の閲覧・謄写請求を拒否することができます。
(3) 裁判例
- 株主が、電力会社の原子力発電事業に関する基本的認識及び姿勢を是正させることを目的として、定款一部変更や取締役選任に関する株主提案を行うために、電力会社の取締役会議事録の閲覧・謄写を請求するのは、権利行使の必要性が認められる。(大阪高決平成25年11月8日)
3 株主名簿の閲覧・謄写請求
(1) 方法
株主は、会社の営業時間内は、いつでも、株主名簿の閲覧又は謄写の請求を、当該請求の理由を明らかにして、行うことができます。
(2) 会社の拒否事由
会社は、以下の事由がある場合は、株主名簿の閲覧、謄写請求を拒否することができます。
① 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
② 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
③ 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
④ 請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
(3) 裁判例
- 「金融商品取引法上の損害賠償請求訴訟の原告を募る」ことを目的として株主名簿の閲覧・謄写請求を行うのは、金融商品取引法で認められている損害賠償請求権を行使するには現に株主である必要がないため、株主の権利の確保又は行使に関する調査とはいえず、会社は、株主からの株主名簿の閲覧・謄写請求を拒否できる。(名古屋高決平成22年6月17日)
- 「著しく多数の株主等があえて同時に閲覧謄写を求めたり、ことさらに株式会社に不利な情報を流布して株式会社の信用を失墜させ、又は株価を下落させるなどの目的で閲覧謄写を求めるような場合」は、会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的があるものとして、会社の拒否事由に該当するが、「株主が株式会社に業務提携を提案し、その一環として自らの推薦する者を取締役に就けるべく株主提案を行い、賛同者を募る目的で委任状勧誘を行うために株主名簿の閲覧謄写を請求したからといって」、会社は株主からの閲覧謄写請求を拒否できない。(東京地決平成22年7月20日)
4 計算書類等の閲覧・謄本交付請求
(1) 方法
株主は、会社の営業時間内は、いつでも、会社の各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書や臨時計算書類の閲覧又は謄本の交付請求ができます。
(2) 閲覧・謄本交付請求できる書類は、具体的には以下のとおりです。
①貸借対照表、②損益計算書、③株主資本等変動計算書、④個別注記票、⑤事業報告書、⑥附属明細書
(3) 会社の拒否事由
会社は原則として、株主からの計算書類等の閲覧・謄本交付請求を拒否することはできませんが、例外的に、株主の計算書類等の閲覧・謄本交付請求に正当な目的がない場合は、権利濫用を理由に、計算書類等の閲覧・謄写請求を拒否できると解されています。
5 会計帳簿等の閲覧・謄写請求
(1) 方法
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求を、当該請求の理由を明らかにして、行うことができます。
(2) 閲覧・謄写請求できる、「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲は法文上必ずしも明確ではなく、裁判で争われることもありますが、①仕訳帳、②総勘定元帳、③現金出納帳、④現金仕訳一覧表、⑤預金残高一覧表、⑥売上実績表、⑦在庫高実績表、⑧経理元帳、⑨貸付金元帳、⑩借入金元帳、⑪売掛金元帳、⑫買掛金元帳、⑬手形小切手元帳、⑭商品有高帳、⑮固定資産台帳、⑯有価証券台帳、⑰領収書、⑱日記帳、⑲契約書、⑳請求書、㉑伝票、㉒納品書などが該当すると解されています。
(3) 会社の拒否事由
会社は、以下の事由がある場合は、株主名簿の閲覧、謄写請求を拒否することができます。
① 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
② 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
③ 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
④ 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
⑤ 請求者が、過去2年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
(4) 裁判例
- 会計帳簿等の閲覧・謄写請求をするにあたって、請求の理由を具体的に記載する必要はあるが、「請求の理由を基礎づける事実が客観的に存在することについての立証」は不要である。(最判平成16年7月1日)
- 譲渡制限付株式を他に譲渡しようとする株主が、株式の適正な価格を算定する目的で行う会計帳簿等の閲覧・謄写請求は、特段の事情がない限り、株主の権利の確保又は行使に関する調査の目的が認められるため、会社は株主からの会計帳簿等の閲覧・謄写請求を拒否できない。(最判平成16年7月1日)
- 請求者が、会社と現に競争関係にある場合のほか、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い場合も、会社は株主からの会計帳簿等の閲覧・謄写請求を拒否できる。(東京地決平成19年9月20日)
- 請求者に、会計帳簿等の閲覧・謄写によって知り得る情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図がなくても、請求者が、会社と競業をなす者であるとの客観的事実が認められれば、会社は株主からの会計帳簿等の閲覧・謄写請求を拒否することができる。(最決平成21年1月15日)
6 最後に
今回は、株主が、会社内部の資料を確認し、会社の状況を把握する方法として、
①株主総会議事録の閲覧・謄写請求、②取締役会議事録の閲覧・謄写請求、③株主名簿の閲覧・謄写請求、④計算書類等の閲覧・謄本交付請求、⑤会計帳簿等の閲覧・謄写請求について説明しました。
取締役への責任追及をするとしても、株式を売却するとしても、これらの各請求を用いて、会社の状況を把握する必要がありますが、これらの各請求を適切に行い、資料を取得したり、取得した資料を検討したりするためには、多くの場合、弁護士や公認会計士などの専門家のアドバイスが重要になります。
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