企業法務
売買契約に関連する民法改正について(契約不適合責任2)
1 はじめに
前回は、改正民法のうち、売買契約に関し新設された「契約不適合責任」の概要と要件を説明いたしました。
そこで、今回は、「契約不適合責任」に関し、買主において取りうる手段について説明いたします。
2 追完請求について
⑴ 概要
改正民法では、売主が契約の内容に適合しない目的物等を引き渡した場合には、追完が不能である場合等を除き、買主に追完請求権(代替物又は不足分の引渡請求権及び修補請求権)が認められます(改正民法562条1項)。
追完請求のうち、履行の方法が複数ある場合には買主に選択権 がありますが、「買主に不相当な負担を課すものではないとき」は、売主は買主の請求とは異なる方法での履行の追完をすることが可能とされています。
⑵ 追完の方法選択
上記のとおり、追完の方法については、売主及び買主間で意見が対立する可能性がありますので、売買契約後の紛争を可能な限り防止するためには、売買契約書において、追完方法を予め具体的に規定しておくか、若しくは買主(又は売主)のみが追完内容を指定できることを明記しておくなどの方法を検討する必要があります。
⑶ 追完不能の判断基準
また、上記のとおり、そもそも追完が不能の場合には、買主の売主に対する追完請求権が発生しません。もっとも、どのような状態をもって「追完不能」と判断すべきかは、改正民法に明記されておりませんので、紛争防止の観点からは、例えば、売買契約書において、修補に過大な費用を要する場合として、具体的な金額の基準を記載しておき、当該要件を充たした場合を「追完不能」と定義するなどの方法も検討すべきものと考えられます。
なお、追完が不能と判断された場合には、代金の減額、契約解除、損害賠償等の他の手段を用いることになると考えられます。
3 代金減額請求について
⑴ 改正民法では、売主が契約の内容に適合しない目的物等を引き渡した場合には、買主の責めに帰すべき場合を除き、代金減額請求権が認められます(改正民法563条1項、2項)。なお、この代金減額請求は、履行の追完を催告したにもかかわらず、追完されない場合において、「不適合の程度に応じて」代金の減額を請求することができるものです。そのため、催告なしに直ちに売主に対し代金減額請求をする権利を留保しておくためには、売買契約書において、その旨を明記しておくことが必要となります。
⑵ 代金減額の算定方法
上記のとおり、代金減額請求は、「不適合の程度に応じて」代金を減額するものですが、改正民法においては、具体的な算定方法は何ら定められておりません。そのため、当該算定方法をめぐって売主及び買主間で紛争が生じないよう、売買契約書において、代金減額請求の算定方法や算定基準時等について明記しておくことが必要といえます。
4 損害賠償請求について
⑴ 改正民法においては、たとえ、契約不適合があったとしても、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」は、損害賠償請求をすることはできません(改正民法415条1項但書)。そのため、現行民法の瑕疵担保責任のように、売主に無過失責任を負わせたいという場合には、売買契約書においてその旨を明記することが必要となります。
⑵ 損害賠償請求の賠償対象・範囲について
現行民法の瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、信頼利益(契約が履行されるものと信頼したことによって生じた損害)に限られるという考え方が通説ですが、改正民法における契約不適合責任に基づく損害賠償請求の場合には、一般的な債務不履行と同様、信頼利益に限られず、履行利益(契約が履行されていれば得られたであろう利益)も含まれることになります。
⑶ 損害賠償の費目
また、売主及び買主間の紛争を未然に防ぐために、損害賠償の対象として認められるかどうかが争いになりそうな費目については、予め契約書に対象になり得るのか否かについて明記しておいた方よいといえそうです。
5 契約の解除について
⑴ 現行民法では、履行不能を理由とする解除の要件として、「債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由による」(現行民法543条但書)ことが必要であるとされていましたが、改正民法における契約不適合責任に基づく解除の要件としては、このような要件は必要とされていません。このことは、買主にとっては契約を解除しやすくなることを意味します。そこで、売主として、契約を解除されるケースを可能な限り限定したいということであれば、売買契約等において、契約解除の要件として売主の帰責事由を要件とする旨を明記しておく必要があります。
⑵ また、改正民法下において催告による契約解除を行う場合、債務の不履行が「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である場合」には契約解除ができないこととされています(改正民法541条但書)。この「軽微である場合」の内容は曖昧ですが、現行民法でいう「契約をした目的を達成することができない場合」(現行民法570条)と必ずしも同義ではありません。そのため、この点に関し解釈上の紛争が生じないよう、売買契約書において、「軽微」の具体的な判断基準や判断権者を明記しておくなどの方法をとることが必要です。
6 権利行使のための通知期間制限について
改正民法では、「種類又は品質」に関する契約不適合を認識したにもかかわらず1年間売主に対してその旨の「通知」をしない場合に、買主が権利を失うこととされました(改正民法566条)。なお、同条によると、消滅時効の完成を防ぐための権利の行使は、不適合についての「通知」を行うことで足りることとされました。