離婚、離縁
離婚給付に関する課税関係
1. はじめに
離婚する際には、当事者間において、財産分与や慰謝料、養育費や別居中の婚姻費用の清算など、金銭に関する様々な問題が発生します。
こうした問題に関する話し合いを行う際には、離婚に伴い生じうる税金についても理解していなければ、思わぬ金銭的負担を課される結果になりかねません。
そこで今回は、離婚給付に関する課税関係について、順を追って解説致します。
2. 養育費及び婚姻費用について
(1)養育費
養育費は、子に対する親の扶養義務の履行を意味するため、生活費や教育費として社会通念上必要な範囲内で給付される限りは、贈与税が課税されることはありません(相続税法21の3①二)。
離婚の際、支払いの遅滞を回避するため将来分の養育費を一括して支払うケースもありますが、この場合も、子の年齢や親の収入等の状況を考慮し、給付額が社会通念上必要な範囲内であれば、前記同様に贈与税は課税されないものと解釈されています。
もっとも、一括払いの場合、受け取った金銭を不動産や株式購入資金に充てる等、生活費や教育費以外の目的で消費することも可能となるため、税務署から「養育費は名目のみで、実質的には贈与ではないか」との指摘がなされる可能性が生じえます。
かかるリスクを排除するためには、信託契約を締結して第三者に金銭を信託したり、保険を活用する等、残額の払い戻しができない状態を作り出すといった工夫が必要となります。
(2)別居中の婚姻費用の清算
また、別居中の婚姻費用の清算についても、婚姻期間中における夫婦間の扶養義務の履行であるとして、養育費同様、社会通念上必要な範囲内で給付される限りは課税対象となりませんが、離婚成立後に一括清算する場合、実質的に贈与とみなされるリスクがある点については養育費と同様です。
3. 慰謝料について
慰謝料とは、不貞やDV等により精神的苦痛を受けた一方配偶者に対し、有責配偶者が支払う賠償金です。
こうした慰謝料は、受けた損害に対する埋め合わせとして支払われるものであるため、贈与に該当せず、課税対象とならないのが原則です(所得税法9条1項17号)。
もっとも、この場合も損害賠償額として相当の範囲内を逸脱する場合には、脱税や資産隠しを目的とする実質贈与の可能性を税務署から疑われ、課税対象となるリスクが生じることとなります。
例えば、不貞による慰謝料の場合、不貞に至る経緯や頻度・期間、夫婦の婚姻期間や関係性、子の有無、不貞発覚による夫婦関係への影響等といった個別の事情を考慮して、50万円から400万円といった相場で金額が決定されるのが一般的ですので、こうした個別の事情に比して不相当に高額な慰謝料が支払われている場合には、税務署から上記のような指摘を受ける可能性が高まります。
したがって、調停や訴訟を経由せず、裁判外での交渉のみで慰謝料額に関する合意に至った場合には、贈与税の対象となる可能性がないか、事前に弁護士や税理士に確認しておくことが重要となります。
4. 財産分与について
(1)分与を受ける側の配偶者
財産分与とは、婚姻期間中に両者で協力して築いた財産関係を清算することをいい、論理的には新たに財産を取得するわけではないため、金銭や不動産を分与される側の配偶者が贈与税や不動産取得税を課されることは基本的にありません。
実務上、財産分与の際には、慰謝料や養育費といった要素を総合的に加味した上で金額が決定されることがありますが、上述のとおり、慰謝料や養育費には課税されないため、当該金額が適正なものにとどまる限りは、やはり非課税扱いとなるのが原則です。
(2)分与する側の配偶者
他方で、財産分与によって不動産を分与する側の配偶者は、譲渡所得課税の対象とされ、取得費用よりも分与時の不動産の時価が上回る場合には、譲渡所得分の財産分与義務の消滅という対価を受け取ったものとされ、納税義務が課されます(最判昭和50年5月27日)。
もっとも、一見すると何ら対価を受領していないにも関わらず、財産分与を行う側だけが一方的に納税義務を課されるとの結論は、通常人の感覚からは理解し難く、法律家の間でも批判が強いところです。
このような課税を避けるためには、あらかじめ弁護士に相談し、当該不動産がそもそも財産分与以外の名目の譲渡と構成できないか、事案の背景に遡って検討する必要があります。
また、財産分与の対象となること自体は認めざるをえない場合でも、譲渡所得税は、当該不動産の所有期間や用途によって税率や控除額が変化するため、あらかじめ税理士に確認した上で、慎重に財産分与を行うことが重要となります。
5. まとめ
離婚の際には、上記のように税金関係にまで配慮しながら、交渉を進めていかなければなりません。
離婚に際しご不明・不安な点がある方は、お早めに朝日中央綜合法律事務所の弁護士・税理士にご相談ください。