離婚、離縁
離婚に伴う財産分与請求の具体的方法
1 はじめに
前回は財産分与の基礎知識について説明しましたが、今回は実際に財産分与を請求する具体的な方法について説明します。
2 財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は、現金、預金、不動産、自動車、株式、投資信託、保険金など、ほとんどの財産です。例えば、 会社員である夫が結婚後得た資金で不動産を購入し、預金と株式を保有していたとします。 現時点で妻が夫(相手方)と離婚する場合、妻は原則として離婚時にこれらの財産の2分の1の共有持分をもちます。
ところが、妻が夫の財産の内容を把握していない場合は、妻は実際には財産分与請求を行うことができません。妻は財産分与請求をしようと思えば、夫がどこにどのような不動産を所有しているか、どこの銀行のどの口座にいくらぐらいの預金を持っているか、どのような銘柄の株式を何株持っているかなどを事前に把握しておかなければなりません。
そのためには、毎年春頃に夫あてにくる固定資産税課税通知書や、証券会社からくる配当通知書をコピーしたり、給料の振込先の銀行名と口座番号をメモするなどの準備をしておく必要があります。
3 仮差押え
財産分与請求権は、離婚を要件とし、離婚時に具体的に発生します。妻が夫と離婚の交渉をしている間や離婚調停中に、夫が不動産を処分したり、預金を引き出して隠匿してしまうと、妻は離婚が成立した時に財産分与を請求しても現実に財産を手にすることができません。
このような事態とならないよう、相手方(夫とします)による財産の処分や隠匿を阻止するための制度として、仮差押えの制度があります。
4 仮差押えの方法
仮差押え行うためには、「仮差押え申立書」に次の事項を記載し、離婚調停離婚訴訟を起こす予定の地域を管轄する地方裁判所に提出しなければなりません。
(1)仮に差し押さえる財産の内容とその評価額
仮差押えの対象財産は自ら調べて特定しなければなりません。
不動産であれば、登記事項証明書を取り寄せて財産目録に正確に記載する必要があります。
なお、ローンが残っている場合は、その額を明記します(ローンを差し引いた額を明記する必要があります)。
貯金であれば、金融機関名、支店名、口座名義人を調べて目録に記載します(口座番号までは記載する必要はありません)。
株式であれば取引証券会社名、支店名、銘柄、株式数を記載します。
(2)被保全権利とその評価額
離婚に伴う財産分与請求権です。その評価額は、判明している夫の所有する財産の2分の1から妻の名義の財産を差し引いた額となります。
これに対しては、夫側から次のような反論がなされる場合があります。例えば、夫が創業し急成長した会社の代表取締役社長で、高額な報酬を得ており、自分の特別なスキルや地位によって財産が形成されたため、分与すべき額は非常に少ないなどという主張です。ただし、これは夫が自ら反論し証明する必要があります。
(3)保全の必要性
本件のケースで言えば、もし何もしなければ、離婚が決定するまでの間に夫が財産を処分したり隠匿してしまうおそれが高いという事情を記載します。例えば、夫は離婚そのものを拒否し、財産分与や慰謝料の支払いも拒否している、夫は現に不動産や預金を管理しているという事情です。
(4)裁判所での審尋と保証金
仮差押えの申立をすると、申立人は定められた日に裁判所へ出頭し、裁判官に事情を説明することが通例です。これを「審尋」と言います。審尋においては、被保全権利の存否、保全の必要性の程度が判断され、保全の必要性の程度に応じて「保証金」の額が決定されます。保証金の額は、多くの場合、被保全債権額の10~20パーセント程度です。
5 仮差押えを行うに際しての留意点
(1)仮差押えの効果は強力です。例えば、相手方(夫)の所有する収益不動産に対して仮差押命令が発令されると、直ちにその不動産に仮差押登記がなされ、その後一週間程度で仮差押命令書が夫に届きます。また、夫の預金に対して仮差押命令が発令されると、直ちに預金銀行に対し仮差押通知書が届き、預金は凍結されます。こうなると夫には、速やかに財産分与の交渉に入り早期に妥結しなければならないという心理が働くため、妻にとっては早期かつ有利な解決を望むことができます。
(2)しかし反面、多くの場合、仮差押えは夫にとっては予想外の一撃です。仮差押により一気に夫との感情的対立が激しくなり、離婚や財産分与に向けた円満な交渉は望めなくなります。
したがって、 これから離婚や財産分与の話し合いをしようとする場合は、お互いに腹を割って誠実に話し合いをすべきであると考えます。仮差押手続きは、交渉が行き詰まり解決のめどが立たない場合や、当初から交渉が困難であるとみられる場合に限って利用すべきものと考えるべきでしょう。