成年後見
成年後見人による不正への対応策
1 はじめに
最近、成年後見人が被後見人の金銭を横領したというニュースを目にします。最高裁判所の調査によると、後見人等による不正事例の件数は2014年以降減少傾向にあるものの、2020年においても、不正報告件数が186件、被害額約7.9億円(そのうち専門職が後見人等である件数は30件、被害額は約1億5000万円)と多額の被害が生じています。
今回は、成年後見制度を利用する場合において、後見人による不正が起こらないようにするにはどのような対応策があるかについてご説明します。
2 法定成年後見制度における対応策
法定成年後見制度とは、認知症等によって判断能力が欠けているのが通常の状態にある方について、配偶者の方や四親等内のご親族等の申立てによって、家庭裁判所が後見開始の審判を行い、ご本人を援助する人として成年後見人を選任する制度です。
法定成年後見制度における後見人の不正防止のための対応策としては、以下の2つが挙げられます。
⑴ 成年後見監督人
法定成年後見が開始されると、家庭裁判所は、必要があるときに、申立て又は職権で成年後見監督人を選任します(民法849条)。成年後見人による不正の増加を受けて、家庭裁判所は、成年後見監督人を積極的に選任し、成年後見人に対する監督を強化するようになりました。例えば、東京家庭裁判所の場合、成年後見人が管理する流動資産額が1000万円を超える案件で、原則として専門職の後見監督人を選任する運用となっています。
成年後見監督人が選任されると、成年後見人が被後見人の所有する不動産の処分や被後見人が相続人となる遺産分割協議等の一定の行為をする場合には、成年後見監督人の同意が必要になり、成年後見人の活動に制限がかかります。
⑵ 後見制度支援信託(後見制度支援預貯金)
後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭のみを成年後見人が管理し、通常使用しない金銭は信託銀行等に信託しておく仕組みをいいます。信託した金銭を払い戻す必要が生じた場合、成年後見人は、家庭裁判所に報告書を提出して指示書の発行をうけ、指示書を信託銀行等に提出することで、信託財産から必要な額の払戻しを受けることができます。
後見制度支援預貯金も、制度のしくみは後見制度支援信託と同様ですが、通常使用しない金銭は、信託するのではなく別口座に預金して管理する点が異なります。別口座に預金した金銭の払戻しを行う場合の手続きには、後見制度支援信託と同様、家庭裁判所の指示書の発行が必要となります。
後見制度支援信託(後見制度支援預貯金)を利用すると、上述のとおり、信託財産(預貯金)の払戻しを行うには、家庭裁判所が発行する指示書の発行を受けなくてはならないことから、成年後見人の手続上の負担が増え、適切な時期における迅速な対応が困難になる場合があります。また、信託銀行等に対する報酬や手数料が発生するケースもあり、費用負担が生じます。
3 法定成年後見制度における対応策の問題点
上述2の法定後見制度における対応策は、成年後見人の不正抑止のために一定の効果が認められるものであり、実際に、上述のとおり、2014年以降の後見人等による不正事例は減少傾向にありますが、現状でも残念ながら後見人による不正はなくなっていません。
法定成年後見の場合、後見申立てがなされるのはご本人が認知症等により意思表示が困難となった後です。そのため、家庭裁判所は、ご本人の意思を直接確認することができず、申立書に記載された事情や財産内容、関係者の意見等をもとに、成年後見人を誰にするのか、成年後見監督人の選任や後見制度支援信託(後見制度支援預貯金)の利用をするのかについて決定せざるを得ません。その結果、成年後見人に選任される方は、必ずしもご本人のために適切に財産管理を行うと信頼できる方ではない場合があります。
また、成年後見人として適切に財産管理を行うことができる方が選任されたとしても、家庭裁判所の判断により成年後見監督人の選任や後見制度支援信託(後見制度支援預貯金)の利用が決定された場合には、成年後見人による後見事務の方法が規制されて手続きが煩雑になってしまい、ご本人の望んでいた形での財産管理や支援を受けることが難しくなります。
4 任意後見制度の利用による問題点の解消
上述3のような法定成年後見制度における問題点を解消するために非常に有用な制度が、任意後見制度です。
任意後見制度とは、ご本人(委任者)の判断能力が十分に備わっている間に、委任者の希望を理解している信頼のおける方を受任者として、将来認知症などで委任者の判断能力が低下した場合に後見人になってもらうことを委任する「任意後見契約」を締結しておく制度です。
任意後見制度を利用する場合、誰であればご自身の財産管理を信頼して委ねられるかを委任者に十分検討・調査していただいた上で、その方(個人でも法人でも構いません)を受任者として任意後見契約を締結していただくことができます。そのため、適切に財産管理を行うと信頼できない方が後見人になることによる不正発生のリスクを抑止することができます。
また、任意後見制度の場合、受任者への委任事項の範囲や、委任事項のうち任意後見監督人の同意を要する事項を、合意により規定することができます。後見事務についての委任者の希望についても、任意後見契約の中の付言事項に具体的に記載することで、可能な限り委任者の意向を反映することができます。そのため、受任者にどこまでの事項を委任してどの程度の裁量を与えるか、また、受任者にどのような形で後見事務を行わせるのかについての委任者の希望を、任意後見契約の中に反映していくことができます。
以上の通り、任意後見制度を利用することによって、ご本人が本当に安心して後見業務を委ねられる方に、ご本人が安心できる方法で、ご本人のご希望に沿った財産管理や支援を任せることができるようになります。
5 さいごに
任意後見制度の利用を検討するに際しては、専門家に相談されることをお勧めします。
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所は、東京、大阪、名古屋、横浜、札幌、福岡に拠点を有しておりますので、お気軽にご相談ください。