貸地・貸家明け渡し
借地人の相続発生と家屋の相続登記未了の場合
第1 はじめに
土地所有者である賃貸人の皆様にとっては,借地人の相続が発生し,土地上の家屋の相続登記が未了である場合に,誰を相手方として各種請求(賃料請求訴訟,明渡請求訴訟,契約解除請求)をすべきか,悩ましい問題であると思います。そこで,今回は,借地人の相続発生と家屋の相続登記未了の場合の法的問題について解説いたします。
第2 相続登記未了の場合
前借地人に相続が発生した場合,本来,相続人は速やかに借地上の家屋(前借地人が所有していた建物)の相続登記を経由すべきです。相続登記とは,不動産(土地・建物など)の所有者が亡くなった場合に,当該不動産の登記名義を被相続人から相続人へ名義の変更を行うことをいいます。
そして,相続登記をすることで,法律関係が明確になる(たとえば,相続が2回以上重なると誰が相続人であるのかを調査するために相当な時間が掛かってしまい,賃貸人は,賃借人に対する各種請求を早期に実現することができないという問題があります)ため,賃貸人側は,誰を相手に各種請求をすべきか(この点につきましては,後記「第3」で詳述いたします)を判断することができます。
また,借地人側とっても,法律関係の明確化,不動産売却の場合の迅速性等の点でメリットがあります。
したがいまして,前借地人の相続が発生した場合,相続人は速やかに相続登記を経由すべきことになります。
第3 訴訟提起の相手方(相続人)特定の必要性
相続登記が未了の場合,賃貸人は,誰を相手方として賃料請求訴訟や土地明渡訴訟等をすべきであるかという問題があります。
1 賃料請求訴訟
既に発生している賃料債務や将来発生する損害賠償債務については,相続分に応じた可分債務となります。一方で,裁判例においては,相続財産共有の状態が解消されていない間の賃料債務について,不可分債務であると判示しています(大判大正11年11月24日)。不可分債務においては,債権者は、各債務者に対して,債務の全部の履行を請求することができるため(民法430条、436条),賃貸人が賃借人の相続人に対して賃料支払請求訴訟を起こす場合には,前賃借人の相続人の一部を相手方として、賃料全額の支払いを請求する訴訟を提訴することができます。
2 土地明渡訴訟
前賃借人である被相続人が土地明渡債務を負担していた場合,同債務の不履行により既発生の損害賠償債務は,各相続人の相続分に応じて承継されます(可分債務,大阪地判昭和31年5月13日)。
賃貸人が相続人を被告として建物収去土地明渡請求訴訟を提起する場合,同訴訟は固有必要的共同訴訟ではないと解されているため(最判昭和43年3月15日民集22巻3号607頁),共同相続人のうち一部の相続人を被告として訴訟を提起することができます。ただし,同訴訟での判決等で明渡を認める債務名義を取得しても,被告として選択しなかった相続人に対して明渡の強制執行をすることはできません。結局,相続人を特定し,明渡に同意しない全ての相続人に対する訴訟提起が必要となりますので,相続人の特定が重要である,ということになります。
3 契約解除請求
相続人が複数の場合,借地権は共同相続される(民法898条)ため,賃貸人が当該土地の賃貸借契約の解除を望む場合には,前賃借人の共同相続人全員に対し,契約解除の意思表示をする必要があるとされています(民法544条,最判昭和36年12月22日民集15巻12号2893頁)。このような場合においては、前賃借人の共同相続人全員を特定することが必須となります。
4 このように,賃貸人が上記1ないし3の各種請求をする場合,前賃借人の相続人が誰であるのかを漏れなく正確に把握する必要がありますが,一般の方にとって相続人を漏れなく正確に把握することは簡単なことではありません。
このような場合に,登場するのが我々弁護士です。我々のような相続分野に長けた弁護士であれば,相続人を迅速に特定することができるだけでなく,上記1ないし3の各種請求を実現させることができます。
第4 結語
このように家屋の相続登記が未了である場合には様々な法的問題がありますが,当グループは相続や不動産に関する豊富な経験とノウハウを有するプロフェッショナル集団であるため,常に最高の対策・解決策をご提供することができます。
詳しいお話をお聞きになりたい方は,お気軽に弁護士法人朝日中央綜合法律事務所の弁護士にご相談下さい。