貸地・貸家明け渡し

借地契約・借家契約の終了事由としての契約「解除」の要件

1 はじめに

⑴ 借地契約・借家契約は、①解除、②更新拒絶、③解約の申入れ、④合意解約により終了します。

 ① 解除とは、一定の法律上の要件、または、契約で定めた要件を満たす場合に強制的に契約を破棄することをいいます。

 ② 更新拒絶とは、借地契約については、契約上又は法律上定められた存続期間満了時に、借家契約については、契約上定められた存続期間の満了時に、次回の契約の更新をしないという契約当事者の意思表示をいいます。

 ③ 解約申入れとは、その借家契約につき存続期間の定めがない場合、または、その借地契約・借家契約に中途解約ができる旨の特約が定められている場合に、契約の終了を申入れる契約当事者の意思表示です。なお、地主から中途解約ができる旨の規定は無効になるため、中途解約の申入れができるのは、借家契約の当事者双方又は借地契約の借地人となります。

 ④ 合意解除とは、借地契約・借家契約の当事者双方が合意により、その契約を将来に向かって失効させる行為です。

⑵ 上記のうち、①の解除は、一方当事者が法律上の義務違反または契約違反を犯した場合に限り認められるものですが、判例は単なる法律違反や契約違反があるだけでは解除を認めていません。
 すなわち、判例は、法律違反や契約違反があっても、当事者間の信頼関係が破壊されたとは認めるに足りない「特段の事情」がある場合は、解除は認められないとしています。
 今回は、①の借地契約・借家契約の解除の要件について、詳しく説明します。

2 解除の要件

⑴ 信頼関係の破壊
 上記のとおり、判例は、賃貸借契約が当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約で あることを理由として、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊するに至った場合に限り、契約の解除を認めています。

 

ア 賃料不払いについて
 信頼関係が破壊するに至ったか否かは、滞納に至った経緯、滞納額、滞納期間、その他賃借人の態度・状況・賃料を受領する賃貸人の態度などの諸事情を考慮して判断します。
 一般的に、借地と借家では、借地の方が信頼関係の破壊が認められづらい傾向にあります。
 また、1か月程度の賃料滞納では信頼関係の破壊が認められる裁判例はほとんどなく、2か月の滞納があった事例で信頼関係の破壊が認められた裁判例と認められなかった裁判例があります。
 上記のとおり、賃料滞納が信頼関係を破壊するに至ったか否かは、滞納期間や滞納額だけではなく、諸事情を考慮して判断しますので、個別具体的な検討が必要となります。

  

イ 無断譲渡・転貸
 民法612条は、賃借権の無断譲渡・賃借物の無断転貸を禁止しており、これに違反して、第三者に賃借物の使用・収益をさせたときは解除することができる旨定めています。
 しかし、家業継承に伴う賃借権の譲渡や、娘婿に対する賃借権の譲渡などの事例で、信頼関係は破壊されないとして、解除を認めなかった裁判例があります。
 賃借権の無断譲渡・賃借物の無断転貸が信頼関係を破壊するか否かは、身分関係や使用形態の変更の有無などを考慮して、個別具体的に判断することとなります。

 

ウ 用法違反について
 居住用目的で建物を賃貸したにもかかわらず飲食用店舗として使用している場合や、ペット禁止マンションでの犬の飼育、増改築禁止特約に違反して借家建物を無断増改築した場合などは、信頼関係の破壊が認められる裁判例が比較的多いです。
 他方で、居住用目的で賃借した建物の一部で小規模な学習塾を開設した場合や、ペット禁止特約はあるが、一軒家の賃借であって、愛玩用の座敷犬を買っていた場合などで、信頼関係の破壊が認められなかった裁判例があります。
 用法違反によって信頼関係の破壊が認められるか否かは、契約の経緯、原状回復の難易、近隣住民に与える影響の程度、賃貸人による制止の有無等を総合的に考慮して個別具体的に判断します。

⑵ 催告
ア 催告解除
 賃貸借契約の解除には、信頼関係の破壊に加えて、違反状態を是正するよう相当期間を定めたうえで催告をする必要があります(無断譲渡・転貸の場合は催告不要です)。
 なお、「本書面到達後2週間以内に賃料の支払いがない場合は、本契約を解除する。」というように、条件付きの解除通知も有効とされています。

  

イ 無催告解除
 契約書に「3か月分の賃料滞納があれば催告を要することなく本契約を解除できるものとする。」との無催告解除特約が定められている場合、催告を要することなく、契約を解除することができます。
 もっとも、裁判例は、催告をしなくても不合理とは認められない事情がある場合にのみ、無催告解除が有効であるとしており、注意が必要です。

3 最後に

 以上のとおり、賃借人に契約違反があったとしても、その程度によっては信頼関係の破壊が認められなかったり、催告をしないことが不合理と認められたりすることで、解除が認められないケースがあります。
 賃借人の賃料不払いなどの契約違反を理由として賃貸借契約の解除をする場合は、その違反の程度が信頼関係破壊に至っているか十分検討する必要があります。また、手続きを間違えると解除が認められない可能性もあります。
 当事務所は、東京、大阪、名古屋、横浜、札幌、福岡にオフィスを有しており、幅広い地域のご相談者様からのご相談を承っておりますので、賃貸借契約の解除を検討中の方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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