M&Aの具体例と昨今の実務の実情

M&Aマニュアル

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M&Aの具体例と昨今の実務の実情

集合写真
(1)

相続財産としての非上場株式の換価のためのM&A

(イ)

会社のオーナーの相続人が、相続した株式を売却するケース

(a)
事例の概要
被相続人は、会社のオーナーで、オーナーの株式保有割合は、67%超である。
相続人は事業にタッチしていないため、換価がベストの方針の事例。非上場の同族会社のため、株式に譲渡制限がついており、処分には取締役会の決議が必要である。
(b)
解決方針
1)
解決方法の選択肢
株式換価を行うことがベストの方針であり、その方法としては、以下が考えられる。
イ.
現経営陣へ株式を売却する。
ロ.
現経営陣へ営業譲渡をして、不動産等を所有する「抜け殻会社」を第三者に売却する。
ハ.
第三者へ株式を売却する。
2)
解決方針
現経営陣への株式売却と、第三者への株式売却の両面で検討し、有利な価額での売却が可能となるようにする。
(c)
具体的内容
イ.
第三者買主を探す。
ロ.
株式譲渡制限がついているため、第三者への売却を会社へ通知し、承認を求める。会社が買受人を指定しない場合は、第三者に売却する。
ハ.
会社が買受人を指定した場合は、商事非訟手続にのせ、売却を行う。
ニ.
相続人が、被相続人の事業に全く関与していない場合は、過半数の株を持っていてもその財産的メリットを受けることができない。換価が実現することにより、創業者の作り上げた財産を金銭で受け取ることが出来、その後様々な投資にその資金を振り向けることが出来ることとなる。
(d)
実行のためのポイント
イ.
可能性のあるあらゆる株式換価方法を検討し、その法的・税務的な検討を綿密に行ってどの方法が最も相続人にとって有利かの綿密なシミュレーションを行う。
ロ.
解決への道筋をあらかじめ綿密に検討しておき、短期間でしかも有利な処分を実行できるようにする。
ハ.
株式の価額について、時価鑑定を行い、その価額を基に買主と交渉を行うことで、売主の満足できる価額での決着を図る。
(2)

会社分割に絡んだM&A

(a)

事例の概要

兄弟で所有し経営している中堅企業で、兄弟間で会社を別々に経営しようということとなったが、実際上、会社分割が困難なため、弟の持株を兄が購入することとなった事例。尚、兄弟の持株比率はそれぞれ50%である。
(b)

解決方針

1)
解決方法の選択肢
イ.
会社分割を行い、別々に経営を行う。
ロ.
株式の兄への売却
ハ.
株式の第三者への売却
ニ.
金庫株として、会社へ売却
2)
解決方針
ロ.ハ.の両面で検討する。
(c)

具体的内容

兄に売却し、弟は売却資金をもとに、別業種の会社を設立し、経営を行う。
(d)

実行のためのポイント

イ.
可能性のあるあらゆる株式換価法を検討し、どの方法が最も有利でどれだけの税引後手取り資金になるかの綿密なシミュレーションを行う。
ロ.
相手方との厳しい交渉を行い、有利な条件での解決を目指す。
ハ.
株式の価額について時価鑑定を行い、その価額を基に買主と交渉を行うことで、売主の満足できる価額での決着を図る。
(3)

事業整理に絡んだM&A

(イ)

民事再生活用のケース

(a)
事例の概要
IT関係のベンチャー企業が、創業4年目にして、設備および研究の先行投資のため、資金不足で債務超過の状況に陥っていたケース。民事再生法による会社再建を検討したが、金融機関の足並みが揃わず、破産しか道が無い状況。
(b)
解決方針
M&Aで会社を売却する。
(c)
具体的内容
イ.
売却する会社の技術力を高く評価してくれるIT関係の大手上場企業にM&Aで売却する。
ロ.
社長は、開発能力があるため、経営者として続投する。
ハ.
親会社の強力な資金力と、優秀な親会社スタッフを迎え、会社を再生する。
(d)
実行のためのポイント
イ.
社長の個人的な開発能力を会社の価値と捉え、M&Aの売却価格を設定し、交渉する。
ロ.
売買価額の決定においては、売り会社の営業権(社長の開発能力)を買主に対していかに評価させ、売買価額にもり込むかについて、買主と厳しい交渉をする必要がある。
(4)

事業承継相続税軽減対策に絡んだM&A

(イ)

後継者がいない会社で、会社を外部に売却し、売却資金で相続税軽減を行うケース

(a)
事例の概要
オーナー社長甲が発行済株式の100%を所有するA社の売却を行う事例。甲の相続人がA社の事業を承継する意思がないケースでは、オーナーとして株を所有しつづける必要がないので、現時点で自社株式の売却を行い、創業者利益を得て、その資金で収益の柱を作りつつ、相続税対策を行う。
(b)
解決方針
イ.
甲所有のA社株式100%について、第三者に譲渡する。
ロ.
買い手候補は、株式譲渡後A社をより発展させることが可能と予想される会社とする。
ハ.
株式売却資金の運用方法については、甲の相続人のために相続税軽減の効果が高く、かつ将来安定的な収入が期待できる資産とする。
(c)
具体的内容
甲が所有するA社株式100%を約20億円で売却。売却資産のうち約10億円で収益不動産を購入する。
(d)
実行のためのポイント
イ.
買い手候補について、甲の意向を十分に確認して選定する。
ロ.
甲自身の相続税対策という観点から、株式売却及び売却資金による資産運用についての相続税軽減シミュレーションを行い、対策内容と効果について十分な事前評価を行う。
(ロ)

後継者のいない会社で、会社の事業部門の一部を分割した上で外部に売却し、売却資金で相続税軽減を行うケース

(a)
事例の概要
オーナー社長である甲が発行済株式の100%を所有するA社(不動産賃貸業と某製造業を営む。)について、甲には後継者がいない事例。A社については事業承継の問題と甲自身の相続税の問題がある。
(b)
解決方針
イ.
A社について、不動産賃貸業と製造業に分割し、不動産賃貸業部門は、甲が個人で所有する不動産の管理等も行う会社として、甲が今までどおり株式を所有し、製造業部門については、外部に売却する。
ロ.
株式の売却資金の運用方法については、甲の相続人のために相続税軽減効果が高く、かつ、将来安定的な収入が期待できる資産へ投資を行う。
(c)
具体的内容
分割型会社分割により切り出した製造部門の株式を外部に売却する。
(d)
実行のためのポイント
イ.
会社分割制度を活用し、製造業に必要ない資産(不動産賃貸業関連)を除いておくことで、売却をより容易に実行できるようにする。
ロ.
甲個人については、今後、不動産賃貸を中心とした安定的な収入が確保され、相続税軽減対策としても効果的であることを、具体的なシミュレーションを行い、確認する。
(ハ)

相続税の評価区分上、株式保有特定会社となっている会社で、M&Aにより会社を買収し、評価区分を変更し、評価を下げるケース

(a)
事例の概要
A社の持株会社であるB社の発行済株式の100%を所有するオーナー社長甲の相続税の軽減対策として、M&Aにより会社を買収する事例
(b)
解決方針
持株会社のB社(相続税法上、中会社に該当)の株式評価について、その総資産額(20億円)にしめるA社株式の価額(12億円)が50%を超えていることから、株式保有特定会社に該当し、評価が非常に高く評価されているため、その株式保有割合を引下げ、株式保有特定会社の適用を外すためにA社と同業種のC社の買収、合併を行う。
(c)
具体的内容
B社が総資産額15億円のC社を約10億円で買収した後、B社とC社は合併する。これによって、株式保有割合が50%未満となりB社株式の評価は、純資産価額と類似業種比準価額の併用方式となり、以前の2分の1相当額まで下落する。
(d)
実行のためのポイント
イ.
相続税上の株式評価の仕組み及びM&Aの後における株式評価額について、具体的なシミュレーションに基づき、詳細な分析を行う。
ロ.
買収に際し、株式保有特定会社の適用を外すことが可能な条件を明確にした上で、対象会社の選定を行う。
(5)

所得税軽減のために行うM&A

(イ)

不動産の売却に代え、会社を売却したケース

(a)
事例の概要
会社のオーナー一族で100%の株式を保有している。会社所有の唯一の土地が駅前の非常に高立地の場所にあり、時価は15億円(500坪)であるが、古くからの所有地のため帳簿価額は300万円。もともとガソリンスタンドを経営していたが、経営不振のため3年前に閉鎖し駐車場となっている。オーナーが高齢であるケース。
(b)
提案内容と解決の方針
1)
解決方針
イ.
株式の形で売却する。
法人で土地を売ると、簿価が非常に低いため、売却金額のほとんどが譲渡益となり、40%を超える法人税がかかってくる。しかも、税引後残った売却資金は法人の所有のため、株主としては自由に出来ない。土地を、会社の株式として売却すれば、個人の株式の譲渡所得税は26%ですみ、しかも、税引後の売却資金は個人の所有となる。
(c)
具体的内容
当該地の隣接地を持っている会社が事業拡張を考えているため、第一順位として交渉する。
(d)
実行のためのポイント
イ.
法人で土地を処分した場合と、株式の形で売却した場合の、有利不利をシミュレーションする。
ロ.
M&Aの実行段階では、法律・税務の様々な業務を組織的に行う。
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