⑴
平成17年改正前商法266条1項5号は、「法令又は定款に違反する行為」をした取締役は株式会社に対して損害賠償責任を負う旨規定していました。
会社法は、取締役の責任に関する規整を大幅に整理統合し、平成17年改正前商法266条1項5号に相当する規定を、任務懈怠という表現を用いた規定に改めました(会社法423条1項)。会社法においては、「法令又は定款に違反する行為」は「任務懈怠」として同法423条1項が適用されることになります。
会社法は、取締役の責任に関する規整を大幅に整理統合し、平成17年改正前商法266条1項5号に相当する規定を、任務懈怠という表現を用いた規定に改めました(会社法423条1項)。会社法においては、「法令又は定款に違反する行為」は「任務懈怠」として同法423条1項が適用されることになります。
⑵
法令違反
ア
「法令」
平成17年改正前商法266条1項5号にいう「法令」は、株式会社を名宛人とし株式会社の営業に際して遵守すべきすべての法令が含まれると解されています(最判平12・7・7民集54巻6号1767頁)。
すなわち、「法令」には、①特定の行為を禁止又は制限する具体的規定のみならず、②取締役の善管注意義務や忠実義務を定める抽象的な規定(会社法330条、同法355条、民法644条)や、③刑法や独占禁止法など公益の保護を目的とする規定も含まれます。
この解釈は、新会社法423条1項の「任務懈怠」の解釈にも妥当するとされています。
すなわち、「法令」には、①特定の行為を禁止又は制限する具体的規定のみならず、②取締役の善管注意義務や忠実義務を定める抽象的な規定(会社法330条、同法355条、民法644条)や、③刑法や独占禁止法など公益の保護を目的とする規定も含まれます。
この解釈は、新会社法423条1項の「任務懈怠」の解釈にも妥当するとされています。
イ
過失責任
判例は、任務懈怠につき取締役の故意又は過失を要するとしています(最判昭51・3・23金融商事判例503号14頁)。
⑶
法令違反が問題となる類型
法令違反が問題になるのは、次のような場合です。いずれも、善管注意義務違反、忠実義務違反が問題となるケースです。
ア
経営判断上のミス
例えば、取締役が経営多角化を図り、新規事業に多額の投資をしたが、その後の経済環境の変化により事業化が不可能になったような場合、善管注意義務違反の有無が問題となります。
この点については、本マニュアル「第5 取締役の責任-善管注意義務・忠実義務違反」で詳しく説明いたします。
この点については、本マニュアル「第5 取締役の責任-善管注意義務・忠実義務違反」で詳しく説明いたします。
イ
競業取引違反・利益相反取引違反
取締役が競業取引又は利益相反取引をなし、これにより株式会社に損害を与えた場合は、任務懈怠があったものとして、その取締役は株式会社に対し損害賠償責任を負います。
この点については、本マニュアル「第6 取締役の責任-競業取引」及び「第7取締役の責任-利益相反取引」で詳しく説明いたします。
この点については、本マニュアル「第6 取締役の責任-競業取引」及び「第7取締役の責任-利益相反取引」で詳しく説明いたします。
ウ
監視義務違反
取締役は善管注意義務の一形態として他の取締役の職務が適正に行われるように監視する義務を負い、他の取締役が不適正な業務執行によって株式会社に損害を与えた場合には、当該取締役はたとえその業務執行に直接タッチしていなかったとしても、株式会社に対し損害賠償責任を負うことがあります。
この点については、本マニュアル「第8 取締役の責任-監視義務違反」で詳しく説明いたします。
この点については、本マニュアル「第8 取締役の責任-監視義務違反」で詳しく説明いたします。
⑷
定款違反
実務上定款違反が問題となるのは、いわゆる目的外行為です。すなわち、取締役が株式会社の定款上の目的の範囲を逸脱する行為をなし、これにより株式会社に損害を与えた場合は、損害賠償責任が生じます。取締役が株式会社を代表して公益事業団体や政党に寄付をする場合等に問題となります。
任務懈怠