第1編
会社分割の法律実務
第3
1
会社法
(1)
会社分割の定義
会社分割とは、株式会社又は合同会社(分割会社)が、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割後、他の会社(承継会社)又は分割により設立する会社(設立会社)に承継させることをいいます(会社法2条29号、30号)。
会社分割のうち、承継会社に権利義務を承継させる場合を吸収分割といい(会社法2条29号)、設立会社に承継させる場合を新設分割といいます(会社法2条30号)。
会社分割とは、株式会社又は合同会社(分割会社)が、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、分割後、他の会社(承継会社)又は分割により設立する会社(設立会社)に承継させることをいいます(会社法2条29号、30号)。
会社分割のうち、承継会社に権利義務を承継させる場合を吸収分割といい(会社法2条29号)、設立会社に承継させる場合を新設分割といいます(会社法2条30号)。
(2)
旧商法との異同
(イ)
人的分割・物的分割
人的分割とは、分割会社の株主が、分割の対価(分割対価)として、承継会社又は新設会社から株式の交付を受ける会社分割をいいます。
物的分割とは、分割会社自身が、分割対価として、承継会社又は新設会社から株式の交付を受ける会社分割をいいます。
旧商法下においては、人的分割もありましたが、会社法では、分割会社において、物的分割の効力発生日に、株主に対して、分割対価として交付された承継会社又は新設会社の株式を(a)全部取得条項付種類株式の取得対価として、又は(b)剰余金の配当として、交付することで人的分割と同様の効果が得られるようになったため、(会社法758条8号、760条7号、763条12号、765条1項8号)、人的分割は撤廃されました。
人的分割とは、分割会社の株主が、分割の対価(分割対価)として、承継会社又は新設会社から株式の交付を受ける会社分割をいいます。
物的分割とは、分割会社自身が、分割対価として、承継会社又は新設会社から株式の交付を受ける会社分割をいいます。
旧商法下においては、人的分割もありましたが、会社法では、分割会社において、物的分割の効力発生日に、株主に対して、分割対価として交付された承継会社又は新設会社の株式を(a)全部取得条項付種類株式の取得対価として、又は(b)剰余金の配当として、交付することで人的分割と同様の効果が得られるようになったため、(会社法758条8号、760条7号、763条12号、765条1項8号)、人的分割は撤廃されました。
(ロ)
会社分割の対象
旧商法においては、会社分割の対象は「営業の全部または一部」とされていましたが、会社法においては、「その事業に関して有する権利義務の全部または一部」とされ、「営業」が会社分割の対象ではなくなりました。
旧商法においては、会社分割の対象は「営業の全部または一部」とされていましたが、会社法においては、「その事業に関して有する権利義務の全部または一部」とされ、「営業」が会社分割の対象ではなくなりました。
(3)
吸収分割手続
(イ)
吸収分割契約
吸収分割をするためには、当事会社において、一定の事項(会社法758条)を定めた吸収分割契約を締結する必要があります(会社法757条)。
なお、会社法は、吸収分割契約書の作成を要求していませんが、商業登記の関係上、吸収分割契約書の作成は必要となります。
吸収分割契約で定めるべき事項は、下記(a) から(f) になります(会社法758条)。
吸収分割をするためには、当事会社において、一定の事項(会社法758条)を定めた吸収分割契約を締結する必要があります(会社法757条)。
なお、会社法は、吸収分割契約書の作成を要求していませんが、商業登記の関係上、吸収分割契約書の作成は必要となります。
吸収分割契約で定めるべき事項は、下記(a) から(f) になります(会社法758条)。
(a)
当事会社の商号及び住所
(b)
承継会社が吸収分割において分割会社より承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
(c)
吸収分割において分割会社または承継会社の株式を承継会社に承継させるときは、当該株式に関する事項
(d)
承継会社が吸収分割に際して分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部または一部に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等(株式、社債、新株予約権等)に関する事項(数、種類、算定方法等)
(e)
承継会社が吸収分割に際して分割会社の新株予約権者に対して、当該新株予約権の代わりに承継会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権に関する事項(内容、算定方法、社債の種類、割当て関する事項等)
(f)
吸収分割の効力発生日
(g)
上記効力発生日に、全部取得事項付種類株式の取得、剰余金の配当を行うときは、その旨
(ロ)
事前開示書類
吸収分割をするためには、当事会社は、一定の事項を記載した書面または電磁的記録(事前開示書類等)を本店に備え置く必要があります(会社法782条、794条)。
当事会社の株主、新株予約権者、債権者は、それぞれの事前開示書類等の閲覧、謄本・抄本の交付等を請求することができます(会社法782条3項、794条3項)。
事前開示書類は、下記(a) から(e)のいずれか早い日から6か月間、備え置かなければなりません(下記(c) 及び(e) は、分割会社の場合のみに適用されます)。
吸収分割をするためには、当事会社は、一定の事項を記載した書面または電磁的記録(事前開示書類等)を本店に備え置く必要があります(会社法782条、794条)。
当事会社の株主、新株予約権者、債権者は、それぞれの事前開示書類等の閲覧、謄本・抄本の交付等を請求することができます(会社法782条3項、794条3項)。
事前開示書類は、下記(a) から(e)のいずれか早い日から6か月間、備え置かなければなりません(下記(c) 及び(e) は、分割会社の場合のみに適用されます)。
(a)
吸収分割の承認に関する株主総会の2週間前の日
(b)
反対株主の株式買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
(c)
新株予約権買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
(d)
債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日
(e)
上記(a) から(d) 以外の場合には、吸収分割契約の締結の日から2週間を経過した日
事前開示すべき事項は、下記1)から8)になります。下記3)は、完全子会社となる会社の場合のみに適用されます(会社法782条1項、794条1項、会社法規則183条、192条)。
事前開示すべき事項は、下記1)から8)になります。下記3)は、完全子会社となる会社の場合のみに適用されます(会社法782条1項、794条1項、会社法規則183条、192条)。
1)
吸収分割契約の内容
2)
吸収分割に際しての分割対価の相当性、及び、分割対価が株式の場合には、承継会社の資本金・準備金の額の相当性に関する事項
3)
吸収分割の効力発生日に、全部取得事項付種類株式の取得、剰余金の配当を行う旨の総会決議が行われている場合には、その決議内容
4)
吸収分割に際して、分割会社の新株予約権者に対して、その新株予約権に代わり交付する承継会社となる会社の新株予約権の相当性に関する事項
5)
相手方当事会社の計算書類等の内容
6)
最終事業年度の末日後に生じた重要な事象等の内容
7)
分割会社は、分割会社の債務および承継会社に承継させる債務の履行の見込みに関する事項、承継会社は、承継会社の債務の履行の見込みに関する事項
8)
吸収分割の効力が生ずるまでの間に、上記1)から7)の事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項
(ハ)
株主総会の承認
吸収分割をするためには、当事会社は、その効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収分割の承認を受けなければなりません(会社法783条1項、795条1項)。
株主総会の決議は、特別決議によらなければなりませんが(会社法309条2項12号)、一定の場合(承継会社となる会社より受け取る対価が譲渡制限付株式等である場合等)には、特殊決議、種類株主総会の承認、総株主全員の同意が必要となります(会社法322条1項、323条、324条1項、795条4項)。
承継会社において、取締役は、分割会社から承継する債務額が承継する資産額を超える場合、及び、承継会社となる会社が分割会社となる会社の株主に対して交付する金銭等(承継会社の株式等は除く)の帳簿価額が、承継会社となる会社が承継する資産から債務を控除した額を超える場合には、その旨を株主総会において説明しなければなりません(会社法795条1項、2項)。
さらに、分割会社から承継する資産の中に、承継会社の株式が存する場合には、取締役は、当該株式に関する事項についても、株主総会において説明しなければなりません(会社法795条3項)。
吸収分割をするためには、当事会社は、その効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収分割の承認を受けなければなりません(会社法783条1項、795条1項)。
株主総会の決議は、特別決議によらなければなりませんが(会社法309条2項12号)、一定の場合(承継会社となる会社より受け取る対価が譲渡制限付株式等である場合等)には、特殊決議、種類株主総会の承認、総株主全員の同意が必要となります(会社法322条1項、323条、324条1項、795条4項)。
承継会社において、取締役は、分割会社から承継する債務額が承継する資産額を超える場合、及び、承継会社となる会社が分割会社となる会社の株主に対して交付する金銭等(承継会社の株式等は除く)の帳簿価額が、承継会社となる会社が承継する資産から債務を控除した額を超える場合には、その旨を株主総会において説明しなければなりません(会社法795条1項、2項)。
さらに、分割会社から承継する資産の中に、承継会社の株式が存する場合には、取締役は、当該株式に関する事項についても、株主総会において説明しなければなりません(会社法795条3項)。
(ニ)
簡易分割、略式分割
(a)
簡易分割
簡易分割とは、一定の場合に、分割会社または承継会社の株主総会決議を省略して行う吸収分割手続をいいます。
分割会社においては、吸収分割に際し、承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計が、分割会社の純資産額の5分の1を超えない場合に簡易分割を行うことができます(会社法784条3項)。
承継会社においては、吸収分割に際し、承継会社となる会社が分割会社となる会社の株主に対し交付する株式の数に1株あたりの純資産額(会社法規則196条)を乗じて得た額と、吸収分割に際し交付する社債その他の財産の帳簿価額の合計額が承継会社となる会社の純資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めることも可能です。)を超えない場合に行うことができます(会社法796条3項)。
ただし、承継会社となる会社に分割差損が生じる場合、及び、承継会社となる会社が公開会社ではなく、かつ、交付される株式が譲渡制限株式である場合には(会社法796条3項但書)、簡易分割によって吸収分割を行うことはできません。
また、反対株主の株式買取請求に係る株主に対する通知・広告の日から2週間以内に、法務省令(会社法規則197条)に定める数の株式を有する株主が、当該吸収分割に反対する旨の通知した場合は、承継会社は、株主総会の承認決議が必要となります。
簡易分割とは、一定の場合に、分割会社または承継会社の株主総会決議を省略して行う吸収分割手続をいいます。
分割会社においては、吸収分割に際し、承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計が、分割会社の純資産額の5分の1を超えない場合に簡易分割を行うことができます(会社法784条3項)。
承継会社においては、吸収分割に際し、承継会社となる会社が分割会社となる会社の株主に対し交付する株式の数に1株あたりの純資産額(会社法規則196条)を乗じて得た額と、吸収分割に際し交付する社債その他の財産の帳簿価額の合計額が承継会社となる会社の純資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めることも可能です。)を超えない場合に行うことができます(会社法796条3項)。
ただし、承継会社となる会社に分割差損が生じる場合、及び、承継会社となる会社が公開会社ではなく、かつ、交付される株式が譲渡制限株式である場合には(会社法796条3項但書)、簡易分割によって吸収分割を行うことはできません。
また、反対株主の株式買取請求に係る株主に対する通知・広告の日から2週間以内に、法務省令(会社法規則197条)に定める数の株式を有する株主が、当該吸収分割に反対する旨の通知した場合は、承継会社は、株主総会の承認決議が必要となります。
(b)
略式分割
略式分割とは、当事会社の一方が他方会社の総株主の議決権の10分の9(定款でこれを上回る割合を定めることも可能です。)以上を有する場合、被支配会社の株主総会決議を省略して行う吸収分割をいいます(会社法784条1項、796条1項)。
かかる略式分割は、被支配会社が承継会社となる場合も分割会社となる場合にも適用されます。
ただし、被支配会社である承継会社となる会社が公開会社でなく、かつ、吸収分割において当該承継会社の株式を交付する場合には(会社法796条1項但書)、略式分割によって吸収分割を行うことはできません。
略式分割とは、当事会社の一方が他方会社の総株主の議決権の10分の9(定款でこれを上回る割合を定めることも可能です。)以上を有する場合、被支配会社の株主総会決議を省略して行う吸収分割をいいます(会社法784条1項、796条1項)。
かかる略式分割は、被支配会社が承継会社となる場合も分割会社となる場合にも適用されます。
ただし、被支配会社である承継会社となる会社が公開会社でなく、かつ、吸収分割において当該承継会社の株式を交付する場合には(会社法796条1項但書)、略式分割によって吸収分割を行うことはできません。
(ホ)
株式買取請求権等
(a)
株式買取請求権
株式買取請求権とは、吸収分割に反対する株主が、会社に対して、自己の所有する株式を買い取るよう請求することができる権利をいいます。
株式買取請求権とは、吸収分割に反対する株主が、会社に対して、自己の所有する株式を買い取るよう請求することができる権利をいいます。
(b)
株式買取請求権の手続
吸収分割に際して、当事会社は、株主に株式買取請求の機会を与えるため、吸収分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに相手会社の商号及び住所を通知又は広告することになります(会社法785条3項、797条3項)。
株主は、株主総会(種類株主総会も同様です)に先立って、当該会社に対して、吸収分割に反対する旨の通知をし、かつ、株主総会において吸収分割に反対した場合には、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの間に、株式買取請求権を行使することができます(会社法785条、797条)。
なお、株主総会の決議を要しない場合及び議決権を有しない株主も、株式買取請求権を行使することは認められており、この場合には、吸収分割に反対する旨の意思表示をする必要はありません。
株式買取請求権の効力は、代金支払い時に生じます。
株式の買取価格は、「公正な価格」とされており、この買取価格について、株主と当事会社との間で協議が調った場合には、当事会社は、吸収分割の効力発生日から60日以内にその代金を支払わなければなりません(会社法785条1項、会社法797条1項)。
一方、株式の買取価格について、吸収分割の効力発生日から30日以内に、株主と当事会社との間で協議が調わない場合には、株主または当事会社はその日から30日以内に、裁判所に対し、株式の価格決定の申立てをすることができます(会社法786条2項、798条2項)。効力発生日から60日以内に、同申立がない場合、その後、株主は、いつでも株式買取請求を撤回することができます(会社法786条3項、798条3項)。
吸収分割に際して、当事会社は、株主に株式買取請求の機会を与えるため、吸収分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに相手会社の商号及び住所を通知又は広告することになります(会社法785条3項、797条3項)。
株主は、株主総会(種類株主総会も同様です)に先立って、当該会社に対して、吸収分割に反対する旨の通知をし、かつ、株主総会において吸収分割に反対した場合には、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの間に、株式買取請求権を行使することができます(会社法785条、797条)。
なお、株主総会の決議を要しない場合及び議決権を有しない株主も、株式買取請求権を行使することは認められており、この場合には、吸収分割に反対する旨の意思表示をする必要はありません。
株式買取請求権の効力は、代金支払い時に生じます。
株式の買取価格は、「公正な価格」とされており、この買取価格について、株主と当事会社との間で協議が調った場合には、当事会社は、吸収分割の効力発生日から60日以内にその代金を支払わなければなりません(会社法785条1項、会社法797条1項)。
一方、株式の買取価格について、吸収分割の効力発生日から30日以内に、株主と当事会社との間で協議が調わない場合には、株主または当事会社はその日から30日以内に、裁判所に対し、株式の価格決定の申立てをすることができます(会社法786条2項、798条2項)。効力発生日から60日以内に、同申立がない場合、その後、株主は、いつでも株式買取請求を撤回することができます(会社法786条3項、798条3項)。
(c)
新株予約権の買取請求
吸収分割に際して、分割会社となる会社の新株予約権者に対して、承継会社となる会社の新株予約権を交付する場合に、分割会社となる会社の新株予約権の内容として、そもそもこのような取扱を予定していない場合又は予定していた条件と異なる取扱を受けるような場合には、当該新株予約権者は、会社に対して、自己の所有する新株予約権を買い取るよう請求することができる権利をいいます。
吸収分割に際して、分割会社となる会社は、新株予約権者に新株予約権の買取請求の機会を与えるため、吸収分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに承継会社となる会社の商号及び住所を通知又は広告することになります(会社法787条3項、4項)。
新株予約権の買取請求をし得る新株予約権者は、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの間に、新株予約権の買取を請求することができます(会社法787条)。
なお、新株予約権付社債の場合、新株予約権の買取を請求するときは、原則として、社債についても合わせて買取を請求しなければなりません。新株予約権の買取請求の効力は、吸収分割契約新株予約権については吸収分割の効力発生時に、他の新株予約権については代金支払い時に生じます。
新株予約権の買取価格は、「公正な価格」とされており、この買取価格について、新株予約権者と分割会社となる会社との間で協議が調った場合には、分割会社となる会社は、吸収分割の効力発生日から60日以内にその代金を支払わなければなりません(会社法788条1項)。
一方、新株予約権の買取価格について、吸収分割の効力発生日から30日以内に、新株予約権者と分割会社となる会社との間で協議が調わない場合には、新株予約権者または分割会社となる会社はその日から30日以内に、裁判所に対し、新株予約権の価格決定の申立てをすることができます(会社法788条2項)。効力発生日から60日以内に、同申立がない場合、その後、新株予約権者は、いつでも新株予約権の買取請求を撤回することができます(会社法788条3項)。
吸収分割に際して、分割会社となる会社の新株予約権者に対して、承継会社となる会社の新株予約権を交付する場合に、分割会社となる会社の新株予約権の内容として、そもそもこのような取扱を予定していない場合又は予定していた条件と異なる取扱を受けるような場合には、当該新株予約権者は、会社に対して、自己の所有する新株予約権を買い取るよう請求することができる権利をいいます。
吸収分割に際して、分割会社となる会社は、新株予約権者に新株予約権の買取請求の機会を与えるため、吸収分割の効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨並びに承継会社となる会社の商号及び住所を通知又は広告することになります(会社法787条3項、4項)。
新株予約権の買取請求をし得る新株予約権者は、吸収分割の効力発生日の20日前からその前日までの間に、新株予約権の買取を請求することができます(会社法787条)。
なお、新株予約権付社債の場合、新株予約権の買取を請求するときは、原則として、社債についても合わせて買取を請求しなければなりません。新株予約権の買取請求の効力は、吸収分割契約新株予約権については吸収分割の効力発生時に、他の新株予約権については代金支払い時に生じます。
新株予約権の買取価格は、「公正な価格」とされており、この買取価格について、新株予約権者と分割会社となる会社との間で協議が調った場合には、分割会社となる会社は、吸収分割の効力発生日から60日以内にその代金を支払わなければなりません(会社法788条1項)。
一方、新株予約権の買取価格について、吸収分割の効力発生日から30日以内に、新株予約権者と分割会社となる会社との間で協議が調わない場合には、新株予約権者または分割会社となる会社はその日から30日以内に、裁判所に対し、新株予約権の価格決定の申立てをすることができます(会社法788条2項)。効力発生日から60日以内に、同申立がない場合、その後、新株予約権者は、いつでも新株予約権の買取請求を撤回することができます(会社法788条3項)。
(へ)
債権者保護手続
吸収分割に際して、債権者に不利益を与えるおそれがある一定の場合には、当該債権者は、吸収分割に対して異議を述べることができます。
分割会社となる会社の債権者は、下記(a)及び(b)の場合に吸収分割に対して異議を述べることができます。
吸収分割に際して、債権者に不利益を与えるおそれがある一定の場合には、当該債権者は、吸収分割に対して異議を述べることができます。
分割会社となる会社の債権者は、下記(a)及び(b)の場合に吸収分割に対して異議を述べることができます。
(a)
吸収分割後、分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者(会社法789条1項)
(b)
分割会社が分割対価である承継会社の株式を全部取得条項付株式の取得対価または剰余金の配当として株主に分配する場合の債権者(会社法789条1項)
承継会社となる会社の全債権者は、当該吸収分割に対して異議を述べることができます(会社法799条1項2号)。
債権者異議申述期間は、1か月以上とされているため、当事会社は、吸収分割の効力発生日の1か月以上前までに、下記1)から4)の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者に対しては個別に催告をする必要があります(会社法789条1項、2項、799条1項、2項)。もっとも、上記官報に加えて、定められた日刊新聞紙または電子広告により、広告する場合には、上記催告は不要になります(会社法789条3項、799条3項、939条1項2号、3号)。
承継会社となる会社の全債権者は、当該吸収分割に対して異議を述べることができます(会社法799条1項2号)。
1)
吸収分割をする旨
2)
相手方当事会社の商号及び住所
3)
当事会社の計算書類に関する事項
4)
債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
債権者が上記債権者異議申述期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収分割について承認をしたものとみなされます(会社法789条4項、799条4項)。
一方、債権者が上記債権者異議申述期間内に異議を述べたときは、当該会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託することが必要になります。もっとも、当該吸収分割をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでありません(会社法789条5項、799条5項)。
一方、債権者が上記債権者異議申述期間内に異議を述べたときは、当該会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託することが必要になります。もっとも、当該吸収分割をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでありません(会社法789条5項、799条5項)。
(ト)
新株予約権証券提出手続と割当て及び登録質権者等に対する手続
(a)
新株予約権証券提出手続
吸収分割契約において、分割会社となる会社の新株予約権者に対して、その新株予約権に代えて承継会社となる会社の新株予約権が交付されると定められており、かつ、当該新株予約権証券が発行されている場合は、吸収分割の効力発生日までに新株予約権を提出しなければならない旨を、当該効力発生日の1か月前までに公告し、かつ、新株予約権者及び登録新株予約権質権者に通知する必要があります(会社法293条1項4号)。
吸収分割の効力発生日までに新株予約権証券を提出しない新株予約権者に対しては、当該証券の提出があるまでの間は、吸収分割によって受け取ることのできる対価の交付を拒否することができます(会社法293条2項)。
なお、上記手続による新株予約権証券の提出が困難な新株予約権者は、他の手続により上記対価の交付を受けることができます(会社法293条4項)。
吸収分割契約において、分割会社となる会社の新株予約権者に対して、その新株予約権に代えて承継会社となる会社の新株予約権が交付されると定められており、かつ、当該新株予約権証券が発行されている場合は、吸収分割の効力発生日までに新株予約権を提出しなければならない旨を、当該効力発生日の1か月前までに公告し、かつ、新株予約権者及び登録新株予約権質権者に通知する必要があります(会社法293条1項4号)。
吸収分割の効力発生日までに新株予約権証券を提出しない新株予約権者に対しては、当該証券の提出があるまでの間は、吸収分割によって受け取ることのできる対価の交付を拒否することができます(会社法293条2項)。
なお、上記手続による新株予約権証券の提出が困難な新株予約権者は、他の手続により上記対価の交付を受けることができます(会社法293条4項)。
(b)
分割対価の割当て
分割会社となる会社に対しては、吸収分割の効力発生日後に、吸収分割の対価を交付することができます(会社法758条4項)。
会社法においては、上記対価とし承継会社となる会社の株式に加えて、社債、新株予約権、金銭等を交付することができます。
分割会社となる会社に対しては、吸収分割の効力発生日後に、吸収分割の対価を交付することができます(会社法758条4項)。
会社法においては、上記対価とし承継会社となる会社の株式に加えて、社債、新株予約権、金銭等を交付することができます。
(c)
登録質権者等に対する手続
分割会社となる会社は、吸収分割の効力発生日の20日前までに、登録株式質権者及び登録新株予約権質権者に対して、吸収分割をする旨を通知または広告する必要があります(会社法783条5項、6項)。
分割会社となる会社は、吸収分割の効力発生日の20日前までに、登録株式質権者及び登録新株予約権質権者に対して、吸収分割をする旨を通知または広告する必要があります(会社法783条5項、6項)。
(チ)
吸収分割の効力
吸収分割の効力は、吸収分割契約において吸収分割の効力発生日と定められた日に、その効力が生じます(会社法758条7号)。
吸収分割の効力発生日を変更する場合には、変更前の効力発生日前日までに変更後の効力発生日を広告する必要があります(会社法790条)。
吸収分割の効力発生日に、承継会社となる会社は、分割会社となる会社の権利義務を承継し(会社法759条1項)、分割会社となる会社の株主等は、吸収分割による対価を取得します(会社法759条4項)。
吸収分割の効力は、吸収分割契約において吸収分割の効力発生日と定められた日に、その効力が生じます(会社法758条7号)。
吸収分割の効力発生日を変更する場合には、変更前の効力発生日前日までに変更後の効力発生日を広告する必要があります(会社法790条)。
吸収分割の効力発生日に、承継会社となる会社は、分割会社となる会社の権利義務を承継し(会社法759条1項)、分割会社となる会社の株主等は、吸収分割による対価を取得します(会社法759条4項)。
(リ)
事後整備書類
分割会社と承継会社は、共同して、吸収分割の効力発生後遅滞なく、下記(a) から(f) の事項を記載した書面等を作成する必要があります(事後開示書類。会社法791条1項2号、会社法規則190条)。
分割会社と承継会社は、共同して、吸収分割の効力発生後遅滞なく、下記(a) から(f) の事項を記載した書面等を作成する必要があります(事後開示書類。会社法791条1項2号、会社法規則190条)。
(a)
吸収分割が効力を生じた日
(b)
分割会社における株式買取請求手続、債権者異議手続、及び新株予約権買取請求手続の経過
(c)
承継会社における債権者異議手続の経過
(d)
吸収分割により承継会社に移転した分割会社の重要な権利義務に関する事項
(e)
吸収分割についての変更登記の日
(f)
上記(a) から(e) に掲げるもののほか、吸収分割に関する重要な事項吸収分割の当事会社は、作成した事後開示書類等を効力発生日から6か月間、その本店に備え置かなければなりません(会社法791条2項)。
当事会社の株主、債権者その他の利害関係人は、これらの事後開示書類等の閲覧、謄写等を請求することができます(会社法791条3項、801条4項、801条5項)。
当事会社の株主、債権者その他の利害関係人は、これらの事後開示書類等の閲覧、謄写等を請求することができます(会社法791条3項、801条4項、801条5項)。
(ヌ)
登記
吸収分割をした場合には、その効力発生日から2週間以内に、分割会社及び承継会社は、それぞれの本店の所在地において、変更の登記をしなければなりません(会社法923条)。
そして、上記登記は、同一の法局において同時に申請する必要があります(商業登記法87条2項)。
吸収分割をした場合には、その効力発生日から2週間以内に、分割会社及び承継会社は、それぞれの本店の所在地において、変更の登記をしなければなりません(会社法923条)。
そして、上記登記は、同一の法局において同時に申請する必要があります(商業登記法87条2項)。
(ル)
分割無効の訴え
吸収分割の無効は、各々の効力発生日から6か月以内に、訴えをもって主張することができます(会社法828条1項9号)。
同訴えを提起することができる者は、当事会社の株主、取締役、吸収分割を承認しなかった債権者等になります(会社法828条2項9号)。一方、同訴えの相手方となる者は、当事会社の双方となります(会社法834条7号)。
吸収分割の無効を主張するためには、無効事由が必要となります。
この無効事由について、会社法は一切規定していませんが、吸収分割契約の内容が違法である場合、総会決議に瑕疵がある場合、債権者保護手続が実施されていない場合等が無効事由に当たると考えられています。
吸収分割の無効判決の効力は、第三者にも及び(対世効。会社法838条)、将来に向かってその効力が生じます(将来効。会社法839条)。すなわち、当該無効判決前になされた吸収分割に関する行為は有効であるが、当該無効判決後に将来に向かってその効力を失うことになります。
吸収分割の無効は、各々の効力発生日から6か月以内に、訴えをもって主張することができます(会社法828条1項9号)。
同訴えを提起することができる者は、当事会社の株主、取締役、吸収分割を承認しなかった債権者等になります(会社法828条2項9号)。一方、同訴えの相手方となる者は、当事会社の双方となります(会社法834条7号)。
吸収分割の無効を主張するためには、無効事由が必要となります。
この無効事由について、会社法は一切規定していませんが、吸収分割契約の内容が違法である場合、総会決議に瑕疵がある場合、債権者保護手続が実施されていない場合等が無効事由に当たると考えられています。
吸収分割の無効判決の効力は、第三者にも及び(対世効。会社法838条)、将来に向かってその効力が生じます(将来効。会社法839条)。すなわち、当該無効判決前になされた吸収分割に関する行為は有効であるが、当該無効判決後に将来に向かってその効力を失うことになります。
会社分割の法律上の規制