離婚の慰謝料の知識2|離婚の慰謝料の額、不貞の場合
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不貞(不倫)の相手方に対する慰謝料請求について
例えば夫が不倫をした場合、夫と、夫に妻がいることを知りながら夫の相手となった女性とは、妻に対して共同して不法行為をしたことになります。ですから、この2人(夫とその相手)は、どちらも妻に対して責任を負うことになります。そして、この例では、妻は、夫一人に対しても、相手の女性一人に対しても、また夫と女性の2人を相手方としてでも、慰謝料請求が原則として可能です。
ただし、2人を相手方としたとしても、慰謝料が2倍取れるわけではなく、請求できる総額は変わりません。
夫に不貞行為はあったものの、夫婦関係が壊れるに至らなかった場合でも、妻から夫の不貞の相手の女性に対する慰謝料請求について50万円が認められた例もあります(東京地裁平成4年12月10日判決)。
もっとも、夫婦関係が既に壊れてしまっていた場合、その後に夫婦の一方の不倫の相手方となった者(例えば夫の相手となった女性)は、この例でいえば妻に対して不法行為責任を負わない、つまり慰謝料は支払わなくてよいとした判例があります(最判平成8年3月26日)。
このような判例がありますので、実務では、不倫の相手方から、不倫をしたのは既に家庭が壊れてからのことなので責任はないというような主張がされることがありますが、言い逃れのためにそのような主張をする例もあり、裁判所が家庭が壊れてからと判断するかどうか、結局裁判所の事実の見方によるということになります。
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慰謝料に対する課税について
金銭で支払われる慰謝料は損害賠償金ですので、課税されないことになっています。もっとも、慰謝料に名を借りた実質贈与とみられるような場合は、税務当局からは別の判断が示されるかも知れませんので、先ほども述べましたが、多額の場合はあらかじめ税理士さんなどの専門家に相談したほうが無難でしょう。
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離婚の慰謝料の判決はあるが、その後相手方が破産したら、もう支払ってもらえないのでしょうか
最近はこのようなケースもたまにあります。支払ってもらうべき相手方から支払いを受けられないうちに、相手方が破産し、裁判所から免責許可がなされた場合、税金等特別の債務を除いて、破産者は支払う責任がなくなります。
ただ、慰謝料は、内容によっては「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」にあたる可能性があり、免責される債務の対象外になる可能性があります。このあたりのことになると弁護士等専門家でも見方の違いがあるかも知れませんので、詳しくは専門家に相談するといいでしょう。
慰謝料の額はどれくらいでしょうか
芸能関係者などで離婚の慰謝料が何千万とか時には億単位ということを耳にしたことがあるかも知れません。そのなかには財産分与が含まれている場合もあり、また、慰謝料は双方が話し合いで決めたものですから、そのような例があってもおかしくはありません。裁判所で認められる慰謝料の額はそれほどではありません。具体的なことについては後に述べます。慰謝料の額については、2人が話し合って決める限り、特に制限はありません。ただ、税務当局から見てあまりにも法外な金額であった場合、財産分与同様、実質的には贈与とみられるおそれはなくはないと思われますから、このあたりになると税理士さんなど専門家に相談した方が無難でしょう。
問題は、2人で話し合っても慰謝料額が決まらなかった場合で、結局裁判所の判断で決めてもらうことになります。
裁判例を見ると、有責配偶者(離婚の原因を作った配偶者)からの離婚請求で1500万円の慰謝料を認めた例(東京高裁平成元年11月22日判決)、不貞行為、悪意の遺棄をした夫に対して慰謝料として1000万円の支払いを命じた例(横浜地裁昭和55年8月1日判決)もありますが、これは例外的なものといっていいでしょう。
慰謝料の例として、妻の性生活拒否により離婚に至った場合、150万円の慰謝料が認められた例(岡山地裁津山支部平成3年3月29日判決)、妻が不貞行為をした場合、300万円の慰謝料が認められた例(東京高裁平成7年1月30日判決)、夫と同棲して離婚に至らせた女性に対する妻からの慰謝料請求について200万円を認めた例(東京高裁平成10年12月21日判決、なおこの例は不貞行為の相手方に対する請求ですが、夫も共同の不法行為者となるので、妻が夫に請求した場合も原則として額は変わらないと思われます)、などがあります。
少し古い調査ですが、東京地裁の昭和55年から平成元年までの判決について、判決301件中、慰謝料0が104件、100万円までが32件、100万円をこえて200万円までが56件、200万円をこえて300万円までが61件、300万円をこえて400万円までが8件、400万円をこえて500万円までが32件(以上合計で301件中293件)、平均すると190万円という調査結果があります。これをみますと、慰謝料は認められても、数十万円からおおむね300万円までで、500万円でほぼ頭打ちということができるでしょう。
現在の実務も、上記のところからあまり大きな変化はないと思われます。
東京家庭裁判所における人事訴訟の審理の実情という本(平成20年7月改訂版発行)では,損害賠償(慰謝料)については,認められたケースで500万円以下が94.3パーセントとされています。
このような調査結果からすると、慰謝料が何千万円とか、一億円をこえるというようなことは、裁判所が認める慰謝料(財産分与は別です)としてはないということがおわかりいただけると思います。