親権・監護権4|引渡し、子の氏と戸籍
(7)
(イ)
離婚後の場合
離婚の後親権者が決められますので、原則として親権を有する者が監護権も有するため、
離婚の後親権者が決められますので、原則として親権を有する者が監護権も有するため、
(a)
父のもとで養育されている子(小学1年生の長男)につき、親権者である母が引渡しを求めたのに対し、子供は父のもとでの生活を望んでいるとしながらも、これは解決可能な問題であり、父には子の引渡しを拒絶する法律上の根拠はないなどとして、母から父に対する子の引渡請求が認められた例(東京高裁平成15年3月12日決定)
があります。
(b)
(a)の裁判の原審で、(a)のケースの長男の妹で5歳の長女を父から親権者である母への引渡しを認めた例(甲府家裁平成14年6月10日審判。この審判では、母が長男長女の引渡しを求めたのに対し、裁判所は長女だけの引渡しを認めたもの。これに対し母から長男も引渡せとして、二審である東京高裁に申立て<抗告>をしたところ、長男も母に引渡せとしたのが(a)の例。)
もあります。
もっとも、親権者であっても、子供の幸せという点からみて問題がある場合は子の引渡しが認められないこともあります。
もっとも、親権者であっても、子供の幸せという点からみて問題がある場合は子の引渡しが認められないこともあります。
(c)
親権者が父と決められている長男(中学2年生)二男(中学1年生)が母のもとで生活しているケースで、親権者である父親が子供たちに暴力をふるうなどしていた場合、母親には子供の引渡しを拒む権限はないとしながらも、母親には親権者変更の申立を促して、親権者変更とともに子供の引渡しについて判断すべきであるとして、結論的には父からの引渡請求を認めなかった例(高松高裁平成元年7月25日決定)
があり、このケースでは原審である松山家庭裁判所宇和島支部も父からの引渡請求を認めませんでした。
ですから、親権者といえども絶対的に強いわけではなく、やはり裁判所は子供の幸せのためにはどうするのがいいのかという観点から判断していることがわかります。
ですから、親権者といえども絶対的に強いわけではなく、やはり裁判所は子供の幸せのためにはどうするのがいいのかという観点から判断していることがわかります。
(ロ)
離婚前の場合
子の引渡しについては離婚前にも問題になることが少なくありません。
子の引渡しについては離婚前にも問題になることが少なくありません。
(a)
父(夫)の暴力、不倫等のため、母(妻)が単身で家を出たため、現在中学2年生の長男、小学5年生の二男、小学3年生の長女が父とともに生活しているところ、母が3人の引渡しを求めたケースで、子供たちの母親を慕う気持ちが強いこと等から、父から母への子供の引渡しを求めた母の申立てを認めた例(東京高裁平成15年1月20日決定)
(b)
離婚調停で、調停の席で調停委員のすすめもあって、母(妻)と父(夫)が冬休みの間だけ子供たち(昭和62年生まれの長女・平成元年生まれの二女)を父のもとで過ごさせ、遅くとも1月15日に母の元に戻すという合意ができ、この合意に基づいて母のもとから父のもとに行かせたのに、この合意に反して父親が母に子供を返さなかったケースで、人身保護法に基づく母親からの父親に対する子供たちの引渡しの請求を認めた例(最高裁平成6年7月8日判決)
などがあります。
人身保護法に基づく子供の引渡のための請求は、最高裁判所の平成5年10月19日の判決以来、引渡しが認められる要件が厳しくなったのですが、(ロ)(b)の例は、家庭裁判所の調停での合意に反している点を重く見て、人身保護法による引渡しを認めたものと思われます。
以上のように、子供の引渡しについても子供の幸せ(福祉)ということに判断の中心がおかれています。もっとも、人身保護法による請求が認められる要件はかなり厳格です。
なお、裁判所が子供の引渡しを命じているにもかかわらず、相手が引渡さない場合、養育費のところで述べた間接強制の申立てができます。裁判所の執行官に行ってもらって直接子供をとりあげることができるかどうか(直接強制ができるかどうか)については専門家の間でも意見が分かれていますが、現実には直接強制による引渡しはなかなか難しいと思われます。
人身保護法に基づく子供の引渡のための請求は、最高裁判所の平成5年10月19日の判決以来、引渡しが認められる要件が厳しくなったのですが、(ロ)(b)の例は、家庭裁判所の調停での合意に反している点を重く見て、人身保護法による引渡しを認めたものと思われます。
以上のように、子供の引渡しについても子供の幸せ(福祉)ということに判断の中心がおかれています。もっとも、人身保護法による請求が認められる要件はかなり厳格です。
なお、裁判所が子供の引渡しを命じているにもかかわらず、相手が引渡さない場合、養育費のところで述べた間接強制の申立てができます。裁判所の執行官に行ってもらって直接子供をとりあげることができるかどうか(直接強制ができるかどうか)については専門家の間でも意見が分かれていますが、現実には直接強制による引渡しはなかなか難しいと思われます。
(ハ)
子の引渡しを求める法的な手法としては次のようなものがあります。
(a)
子の監護に関する処分としての子の引渡の審判の申立て
(b)
(a)の審判申立をした場合、審判前の保全処分としての子の引渡しの仮処分の申立て((a)の審判の結果を待っていられないような場合に審判前の保全処分を求める)」
(c)
離婚訴訟に附帯処分として申立てる子の引渡の請求
(d)
離婚訴訟をしている場合、あるいはする場合(離婚訴訟の訴え提起前の場合)の保全命令の申立て
(e)
人身保護法による子の引渡のための人身保護請求
などが考えられますが、特に、保全処分・保全命令を求める場合、人身保護法による引渡請求をする場合などは、緊急性がある場合のことでもあり、専門家の援助を得たほうがいいでしょう。
(8)
子供を養育している親と、子との氏や戸籍が異なるときはどうしたらいいでしょうか
離婚すると夫婦の戸籍は別々になります。しかし、何の手続もしないと子供はもとの戸籍(例えば父)の戸籍に残っています。このことはたとえ親権者を母と決めた場合も同じです。
子供の氏(苗字)も、もとのままです。
もし、子供の氏を変えたい場合は、親権者(子が15歳以上であれば子供自身)が、子の氏の変更の審判の申立というのを家庭裁判所にする必要があります。この申立てはたいてい認められます。
子の氏の変更(例えば父の氏から母の氏へ)が認められると、子供は変更後の氏を称している親の戸籍に入ることになります。このことは例えば田中さん(夫)と鈴木さん(妻)が結婚して田中姓を名乗っていた場合、離婚しても所定の期間内に戸籍役場に届出をすれば、妻は鈴木でなく田中を名乗ることができますが、子供の氏について、父の田中から母の田中に変更するということが認められれば、同じ田中ですが子供は母の戸籍に入ることになります。
子供を引渡してほしいのに引渡してもらえないときはどうしたらいいでしょうか