4
建物の明け渡しができる場合と明け渡しの方法
(2)
(ロ)
借家契約の存続期間の定めがありこれが満了した場合及び借家契約の存続期間の定めがない場合の借家の明け渡しとその方法
(a)
借家契約の存続期間
借家契約の存続期間は1年以上20年以下でなければなりません (借家法3条の2、民法604条1項)。
借家契約の存続期間の定めが20年を超える場合には20年に短縮されます。また、借家契約の存続期間の定めが1年未満の場合は期間の定めがないものとみなされます。
借家契約の存続期間は1年以上20年以下でなければなりません (借家法3条の2、民法604条1項)。
借家契約の存続期間の定めが20年を超える場合には20年に短縮されます。また、借家契約の存続期間の定めが1年未満の場合は期間の定めがないものとみなされます。
(b)
更新拒絶をすること(借家法2条)または解約申入れをすること(借家法3条)
1)
平成4年7月31日までに成立した借家契約には借家法2条、同法3条の規定が適用されます。
2)
更新拒絶または借家人の使用継続に対する異議
借家法2条1項は
「当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタル場合ニ於テ当事者カ期間満了前6月乃至1年内ニ相手方ニ対シ更新拒絶ノ通知又ハ条件ヲ変更スルニ非サレハ更新セサル旨ノ通知ヲ爲ササルトキハ期間満了ノ際前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ爲シタルモノト看做ス。」 と規定しています。
つまり期間の定めのある借家契約では借家契約を終了させるためには貸主は期間満了前6か月ないし1年前に借家人に対し更新拒絶の意思表示をすることが必要です。
更新拒絶の意思表示が期間満了前6か月を経過した後になされた場合、その更新拒絶の意思表示は無効ですが、更新後の賃貸借に対する解約申入れの意思表示としての効力はあります。
なお、更新拒絶の意思表示をしても期間満了後に賃借人が建物の使用、収益を継続する場合に貸主が借家人に対し遅滞なく異議を述べないと借家契約は自動的に更新してしまいます (借家法2条2項)。 この点に関し、期間満了後66日目になした建物明渡請求の提訴をもって遅滞なく異議を述べたものと認めるとする判例があります (最判昭25.5.2民集4巻5号161頁)
借家法2条1項は
「当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタル場合ニ於テ当事者カ期間満了前6月乃至1年内ニ相手方ニ対シ更新拒絶ノ通知又ハ条件ヲ変更スルニ非サレハ更新セサル旨ノ通知ヲ爲ササルトキハ期間満了ノ際前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ爲シタルモノト看做ス。」 と規定しています。
つまり期間の定めのある借家契約では借家契約を終了させるためには貸主は期間満了前6か月ないし1年前に借家人に対し更新拒絶の意思表示をすることが必要です。
更新拒絶の意思表示が期間満了前6か月を経過した後になされた場合、その更新拒絶の意思表示は無効ですが、更新後の賃貸借に対する解約申入れの意思表示としての効力はあります。
なお、更新拒絶の意思表示をしても期間満了後に賃借人が建物の使用、収益を継続する場合に貸主が借家人に対し遅滞なく異議を述べないと借家契約は自動的に更新してしまいます (借家法2条2項)。 この点に関し、期間満了後66日目になした建物明渡請求の提訴をもって遅滞なく異議を述べたものと認めるとする判例があります (最判昭25.5.2民集4巻5号161頁)
3)
解約申入れをすること
借家法3条は
「賃貸人ノ解約申入ハ6月前ニノコレヲ爲スコトヲ要ス」 と規定しています。
つまり期間の定めのない借家契約では、借家契約を終了させるためには6か月前に解約申入れをする必要があります。解約の申入れとは、契約を将来に向って終了させる契約当事者の一方の意思表示をいいます。
解約申入れには当初から6か月の猶予期間を付さなくても解約申入れの後6か月を経過すれば解約の効力が生じます。
なお、解約申入れによって借家契約が終了した後に借家人が建物の使用、収益を継続する場合、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、前の賃貸借と同一の条件で賃貸借をなしたものとみなされますので注意を要します。
借家法3条は
「賃貸人ノ解約申入ハ6月前ニノコレヲ爲スコトヲ要ス」 と規定しています。
つまり期間の定めのない借家契約では、借家契約を終了させるためには6か月前に解約申入れをする必要があります。解約の申入れとは、契約を将来に向って終了させる契約当事者の一方の意思表示をいいます。
解約申入れには当初から6か月の猶予期間を付さなくても解約申入れの後6か月を経過すれば解約の効力が生じます。
なお、解約申入れによって借家契約が終了した後に借家人が建物の使用、収益を継続する場合、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、前の賃貸借と同一の条件で賃貸借をなしたものとみなされますので注意を要します。
(c)
更新拒絶又は解約申入れのために「正当事由」が存在すること(借家法1条の2)
1)
平成4年7月31日までに成立した借家契約には借家法1条の2の規定が適用されます。
借家法1条の2によると借家契約の更新拒絶又は解約申入れをするにつき、 「建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由」 に基づくことが必要である、 とされています。
借家法1条の2によると借家契約の更新拒絶又は解約申入れをするにつき、 「建物ノ賃貸人ハ自ラ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由」 に基づくことが必要である、 とされています。
2)
ところで、借地借家法28条では、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人 (転借人を含む。以下この条において同じ。) が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」 と規定されています。
以上のとおり借地借家法により、
以上のとおり借地借家法により、
イ.
「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」
ロ.
「建物の賃貸借に関する従前の経過」
ハ.
「建物の利用状況」
ニ.
「建物の現況」
ホ.
「建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」
等、
正当事由の存否を判断するにあたって考慮すべき事項が明文化されました。
この規定は、平成4年7月31日以前に成立した借家には適用されないものとされています。しかし、前記借地借家法28条で列挙されているイ.ないしホ.の事由は、これまで裁判例で採用されてきた正当事由の判断基準を明文化したものです。したがって借地借家法28条の規定は、平成4年7月31日以前に契約された借家につき、その明け渡しの正当事由の有無の判断に際し、実務上大きな影響を与えるものとなっています。
正当事由の存否を判断するにあたって考慮すべき事項が明文化されました。
この規定は、平成4年7月31日以前に成立した借家には適用されないものとされています。しかし、前記借地借家法28条で列挙されているイ.ないしホ.の事由は、これまで裁判例で採用されてきた正当事由の判断基準を明文化したものです。したがって借地借家法28条の規定は、平成4年7月31日以前に契約された借家につき、その明け渡しの正当事由の有無の判断に際し、実務上大きな影響を与えるものとなっています。
3)
借家法の適用をうける借家につき、その明け渡しの正当事由要素としては、以下のものがあります。
イ.
建物使用の必要性
居住の必要性、営業の必要性、第三者の必要性など多様な必要性があります。 貸主、借主双方の必要性を斟酌することになります。
貸主に居住の必要性が強い場合は貸主に有利なファクターとなります。
居住の必要性、営業の必要性、第三者の必要性など多様な必要性があります。 貸主、借主双方の必要性を斟酌することになります。
貸主に居住の必要性が強い場合は貸主に有利なファクターとなります。
ロ.
土地の有効利用の必要性と有効利用の具体的計画
最近では貸主が土地を有効利用する必要性があれば明渡料と引換えに正当事由が認められるケースが多くなりました。
最近では貸主が土地を有効利用する必要性があれば明渡料と引換えに正当事由が認められるケースが多くなりました。
a.
対象建物 (倉庫) が相当老朽化しており、対象建物の存する土地周辺は土地の高度利用が進み地価も著しく高騰しており、対象建物の底地の利用効率が周辺土地と比べて著しく低く、貸主はビル建築の計画を有しているというケースで、裁判所は、「原告においては本件土地の周辺の客観的な状況の変化等に応じ、本件倉庫その他本件土地の上に存する建物を取り壊し、その跡に近代的な建築物を建築し、もって本件土地を有効に活用する必要があるものと認められ、したがって、原告の被告に対する本件倉庫の賃貸借契約の更新拒絶については正当の事由があると認めるのが相当である。」 (東京地判平2.3.8判時1372号110頁) と判示し、明渡料の提供なしに明渡請求を認めました。
b.
一方、東京地裁平成元年7月10日判決 (判時1356号106頁) は、新宿駅近くの木造二階建て建物について、建物の老朽化が著しく耐火建築物に建て替えの必要があり、土地の有効利用上もビル新築の必要が認められるが、借主の移転に伴う営業上の損失も極めて大きいというケースで、「原告の申出に係る2500万円の立退料の提示では未だ正当事由を具備するものとは認め難く右借家権価格のほか、代替店舗確保に要する費用、移転費用、移転後営業再開までの休業補償、顧客の減少に伴う営業上の損失、営業不振ひいて営業廃止の危険性などの諸点を総合勘案すれば、立退料として6000万円を提示することにより正当事由を具備するに至るものと認めるのが相当である。」 と判示し、6000万円の明渡料の支払を条件として明渡請求を認めました。
現在では、有効利用を理由にする明け渡しの場合でも、明渡料により正当事由が補完され、明け渡しが認められるケースがほとんどであるといえます。
ハ.
建物の利用状況
a.
建物の種類、用途 (居住用か事業用か)
b.
建物の構造、規模 (高層か低層か)
c.
建物容積率等の土地利用の程度
d.
建物の建築基準法適合の有無
e.
建物としての効用などのファクターが正当事由要素となります。
ニ.
物の老朽度
建物が老朽化し、建替えの必要性があるほとんどの場合、正当事由が認められます。
建物が老朽化し、建替えの必要性があるほとんどの場合、正当事由が認められます。
a.
建物が老朽化し、そのまま放置すれば間もなく朽廃するという場合や朽廃を防ぐための修繕に多大な費用がかかるという場合には、正当事由が認められます。
例えば、大正12、3年ころ建築された木造建物で、建物の各所にわたって朽廃化の状態が顕著で、構造的にも物理的にも安全といえない状態にあるというケースで、裁判所は、「原告が本件建物を取り壊すことは建物の現況に照らしやむをえないものというべきであり、その跡地に建物を新築することと相まって、本件建物の存する地域、場所の実情に相応した敷地の有効な利用を図るものとして、その必要性を肯認することができ、解約申入の正当事由を構成するに足りるものということができる。」 として、明渡料の支払を条件とすることなく正当事由を認めました (東京地判昭63.10.25判時1310号116頁)。
例えば、大正12、3年ころ建築された木造建物で、建物の各所にわたって朽廃化の状態が顕著で、構造的にも物理的にも安全といえない状態にあるというケースで、裁判所は、「原告が本件建物を取り壊すことは建物の現況に照らしやむをえないものというべきであり、その跡地に建物を新築することと相まって、本件建物の存する地域、場所の実情に相応した敷地の有効な利用を図るものとして、その必要性を肯認することができ、解約申入の正当事由を構成するに足りるものということができる。」 として、明渡料の支払を条件とすることなく正当事由を認めました (東京地判昭63.10.25判時1310号116頁)。
b.
また、建物が大正年代の末ころ築造され、現在屋根の全面的葺替え、一部柱の根継ぎ、一部土台・基礎・敷居の入替え、天井の貼替え、根太の補修等の大修繕を必要とし、朽廃に至っているとはいえないにしてもほぼ5年前後で朽廃に至る状況にあるというケースで、裁判所は、「本件建物に必要とする大修繕は、その費用と修繕後の建物の効用などを比較考慮すると、これを施すことは現実的でなく建て替えるほかはない段階に至っていることが認められる」 として、借家権価格の約4分の1にあたる700万円の明渡料の支払を条件として明渡請求を認めました (東京地判昭63.9.16判時1312号124頁)。
以上のように、建物の老朽化という事実だけでは正当事由として不十分であるとしても、明渡料の支払によって正当事由が補完される場合が大変多いといえます。
以上のように、建物の老朽化という事実だけでは正当事由として不十分であるとしても、明渡料の支払によって正当事由が補完される場合が大変多いといえます。
ホ.
従前の経過
a.
権利金、更新料等の支払いの有無
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
権利金の支払いがなかったことは、正当事由のプラス要素として考慮されます。
b.
借家契約締結時から現在までの期間の長短
借家人が長期間借家を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
借家人が長期間借家を利用していることは、正当事由のマイナス要素と評価する判例があります。
c.
借家権設定時の事情
借家契約が当初他のビルが完成するまでの一時的な使用のために締結され、 その後なし崩し的に通常の賃貸借に変更された場合、(東京高判昭60.10.24判タ590号59頁) や当該建物を取毀して新築する具体的予定のあることを知って貸借した場合 (東京地判昭61.2.28判時1215号69頁) に正当事由を認めた判例があります。
借家契約が当初他のビルが完成するまでの一時的な使用のために締結され、 その後なし崩し的に通常の賃貸借に変更された場合、(東京高判昭60.10.24判タ590号59頁) や当該建物を取毀して新築する具体的予定のあることを知って貸借した場合 (東京地判昭61.2.28判時1215号69頁) に正当事由を認めた判例があります。
d.
賃料額の相当性
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
賃料額が長期間低廉に推移したことは、正当事由のプラス要素となります。
e.
貸主に対する嫌がらせ等の不信行為
これらの行為は、正当事由のプラス要素になります。
これらの行為は、正当事由のプラス要素になります。
ヘ.
財産上の給付
a.
明渡料の提供
b.
代替土地、建物の提供
借家人が対象物件を明け渡しても、他に移転先が存在しているという場合や、賃貸人の方から明渡請求に際して対象物件に代わる代替不動産を提供した場合には、正当事由が認められやすくなります。
借家法の適用がある貸家の明け渡しとその方法(続き)