法定後見制度の知識7|後見監督人の制度

成年後見ガイド

第2

法定後見制度

4

後見監督人、保佐監督人、補助監督人の制度

(1)

後見監督人の制度

(イ)
後見監督人の制度の必要性
これまでに説明したように、後見人は包括的な代理権、財産管理権という大きな権限が与えられており、権限が濫用されると本人は重大な不利益を被りかねません。また、保護される本人は判断能力が足りない人なので、後見人の権限濫用をコントロールすることを期待できません。そこで、第三者が後見人を監督する必要があるわけです。
後見においては、後見人を監督するのは基本的には家庭裁判所です。さらに、家庭裁判所の監督をサポートする機関として、必要に応じて後見監督人を設置(選任)できることになっています。なお、後見監督人は必ず付けなければならないというわけではなく、家庭裁判所の判断によって必要と認められれば置かれることもあるという、任意の機関です。
(ロ)
後見監督人の選任
(a)
家庭裁判所は、必要があるときは、申立て、または職権により、適当な人物を後見監督人に選任します(849条の2)。
これまでの禁治産制度においても後見監督人という制度はあったのですが、あまり利用されていませんでした。それは、職権での選任は認められていなかったことから申立てによる場合しか選任できず、また申立て権者が後見人と親族だけであったことから、後見人は自分を監督するような人の選任をあえて申立てないし、親族の申立ても実際にはあまりなかったことが理由です。
そこで、改正により、家庭裁判所の判断による職権でも後見監督人を選任できることになりました。さらに、申立て権者についても、本人が加えられました。従来の考え方では、本人は判断能力がほとんどない人としてもっぱら保護の対象と考えられていましたが、今では本人の意思をできるだけ尊重しようという考え方に変わってきましたし、本人は実際に後見を受ける人なので、後見人の事務が適正に行われるかに最も大きな利害関係があるからです。
(b)
後見監督人の選任基準
後見監督人の選任は、家庭裁判所が諸事情を総合的に判断して適当な人を選ぶのが基本です。ここでは、後見人選任の場合の考慮事情の規定が準用されているので、後見選任の場合と同じく、以下の事情を考慮しなければなりません(852条、853条4項)。
1)
本人の心身の状態、生活、財産の状況
2)
後見人になる人の職業、経歴
3)
後見人になる人と本人の利害関係
4)
後見人になる人の意見
5)
その他一切の事情
(ハ)
後見監督人になる人
(a)
法人や、複数の人が後見監督人となることの有効性も、後見人の場合と同じです。後見監督の職務をする場合でも、福祉法人がこれにあたったり、親族と法律、福祉の専門家が複数あたったりすることは効果的です。そこで、法人、複数の人も後見監督人になることができると規定されています。
複数の人が後見監督人になった場合に、これらの人たちの間で対立や混乱が起きるおそれもあるので、家庭裁判所は各後見監督人の権限の定めや、権限を共同して行使しなければならないという定めを職権で設定できるという点も、後見人と同じです(852条、859条の2第1項)。
後見監督人の主な職務は後見人の監督なのですが、後見人が本人との利益相反行為をする場合など、例外的に本人の代理人として取引行為をすることもあります。こうした場合に、後見監督人が複数選ばれているときは、取引の相手方はその中の誰か1人に対して意思表示をすればよいものとされています(852条、859条の2第2項)。
(b)
後見監督人の欠格事由
後見監督人も本人の利益のために職務を行うという意味では後見人と同じく、他人のための職務をするのにふさわしい人物でなければなりません。また、本人と利害が対立しているような人は本人を保護するのに適当ではありません。そこで、個々の選任のときに具体的な審理がなされるのとは別に、形式的に欠格事由にあたれば後見監督人にはなれません。この欠格事由は後見人の欠格事由の規定の準用なので同じです(852条、846条)。
1)
未成年者
2)
家庭裁判所で解任などをされた法定代理人、保佐人、補助人
3)
破産者
4)
本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
5)
行方の知れない人
さらに、後見監督人の主な職務は後見人の監督なので、あまりに後見人に身近な人物では、なれあうことによって監督の事務が十分に果たせません。そこで、後見人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹は後見監督人になることはできないという欠格事由も定められています(850条)。
(ニ)
後見監督人の職務
(a)
後見人の事務の監督
後見監督人の主な職務は後見人の監督です(851条1号)。
1)
財産調査、財産目録の作成のときの立会い
後見人は選任されるとすぐに本人の財産を調査し、調査の結果判明した財産の目録を1か月以内に作らなければならないという事務がありますが、このときに後見監督人がいるときはその立会いがなければならず、立会いがなかったときは無効となってしまいます(853条2項)。
2)
後見人の持つ債権、債務の、後見監督人への申出義務
後見人が本人に対して債権や債務を持っているときは、財産の調査を始める前に後見監督人に申し出なければならず、故意に債権を申し出なかったときはこれを失うこととされています(855条2項)。後見人が本人に対して債権や債務を持っているということは、その債権、債務については利害が対立しているということですから、監督の任に当たる後見監督人にそれを確認させるということです。
3)
後見事務の報告請求、財産目録の提出請求
後見監督人は、いつでも、後見人に対し後見事務の報告を請求できますし、また財産目録の提出を請求できます(863条1項)。
4)
後見事務の調査、本人の財産状況の調査
後見監督人は、いつでも、後見事務を調査することができ、また本人の財産の状況を調査することができます(863条1項)。
これらの請求権、調査権は家庭裁判所も同じ権限を持っています。これらの権限を行使することで、後見人の仕事ぶりや本人の財産の状況を把握し、後見人を監督します。
5)
家庭裁判所の必要な処分の命令を求める申立て
家庭裁判所による後見人の監督として、必要な処分を命じることができるという権限がありますが、後見監督人は申立て権者であるので、こうした命令を求めて申立てができます(863条2項)。
6)
後見人の解任の申立て
後見監督人は、家庭裁判所による後見人の解任の申立て権者なので、後見人を監督する中で、不正な行為や著しい不行跡がなされたことを知れば、後見人の解任を申し立てることができます(846条)。
(b)
その他の事務
後見人の監督以外でも、後見監督人はいくつかの事務をすることになっています。
1)
後見人がいなくなったときの申立て
後見人が死亡するなどしていなくなった場合は、後見監督人はすぐに新しい後見人の選任を家庭裁判所に申し立てなければなりません。これによりスムーズに新しい後見人が選任され、本人の保護が全うされます(851条2号)。
2)
急迫の事情がある場合の、必要な処分
後見人が一時的に病気になり、後見の事務ができない場合など、緊急の場合には後見監督人が本人のために必要な行為をすることができます(851条3号)。
3)
利益相反行為についての本人の代理
後見人と本人との利益が相反する行為については、後見人は本人を代理することができず、代わりに後見監督人が本人を代理して取引をすることになります。後見監督人がいないときは特別代理人を選任して本人を代理させるのですが、後見監督人がいるときはわざわざ特別代理人を選任するまでもなく、後見監督人が本人を代理すれば十分ということです(851条4号)。
(ホ)
後見監督人の義務
後見監督人の職務も委任事務の一種ですので、委任契約一般について認められている、受任者の負う善管注意義務を負います。
(ヘ)
後見監督の事務の費用、報酬
後見監督人となる人についても、後見人と同じように、法人や複数の人がなれるようになり、これからは親族でない福祉法人や、法律、福祉の専門家が後見監督人になるケースが増えることで、費用、報酬の請求が問題となってくると思われます。
そこで、これまでは報酬、費用については明確な規定はなかったのですが、改正により設けられた後見人の費用、報酬の規定が準用されることになり、後見監督人の費用、報酬請求権が明確にされています。費用、報酬は本人の財産の中から支出されることになります(861条2項、862条)。
(ト)
後見監督人の辞任、解任
後見監督人も結局は本人の利益を守る人であるため、自由な辞任を許すと本人の保護が不十分になってしまいます。また、他人を守る職務を行う人ですから、違法行為をするなどこうした職務にふさわしくないことをした人物は辞めさせる必要があります。
こうした事情は後見人の辞任、解任の場合と同じであり、後見の規定が準用されています(852条、844条、846条)。
後見監督人は正当な事由と家庭裁判所の許可があれば辞任することができます。
また、後見監督人に不正な行為、著しい不行跡、その他後見監督の任務に適さない事由があるときは、申立てによるか、または職権で、家庭裁判所は後見監督人を解任することができます。

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