3
損害賠償の範囲のQ&A
(6)
(イ)
生命保険・損害保険
Q:
自動車事故の被害者が生命保険または損害保険に加入していたため、保険金を受け取った場合、加害者の損害賠償額からその保険金の額は差し引かれますか?
A:
1.
損益相殺
被害者が、事故にあったことによって、損害を被るとともに、利益をも受けた場合、損害賠償額からその利益相当額を差し引くことを損益相殺といいます。法律には定めがありませんが、公平の観点から実務上当然に認められています。損益相殺により損害賠償額から差し引かれるべき利益は、事故にあった場合に通常受け取るものに限られます。
被害者が、事故にあったことによって、損害を被るとともに、利益をも受けた場合、損害賠償額からその利益相当額を差し引くことを損益相殺といいます。法律には定めがありませんが、公平の観点から実務上当然に認められています。損益相殺により損害賠償額から差し引かれるべき利益は、事故にあった場合に通常受け取るものに限られます。
2.
生命保険・損害保険
(1)
生命保険金につき、判例は、すでに払い込んだ保険料の対価としての性質を有し、もともと事故とは関係なく支払われるべきものであるから、損益相殺の対象とならず、損害賠償額から差し引かれないとしています。
(2)
損害保険金についても同様に、判例は、損益相殺の対象にならないとしています。
(3)
なお、所得保障保険給付金につき、損益相殺の対象となることを認めた判例がある一方で、災害入院給付金につき、損益相殺の対象とならないとした裁判例があります。
(ロ)
将来納付すべき所得税
Q:
自動車事故の被害者が死亡したり、あるいは、後遺症が残った場合、被害者が将来にわたって納付すべきであった所得税相当額は損害賠償額から控除されますか?
A:
1.
問題の所在
自動車事故により被害者が死亡したり、あるいは、後遺症が残った場合、被害者は、将来にわたって得られたはずの収入を得られなくなる一方、将来にわたって納付すべきであった所得税を納付しなくてよいことになります。
そこで、被害者は、損害賠償の原因である自動車事故と同じ原因によって、将来の所得税を納めなくてよいという利益を受けたとして、損害賠償額から将来の所得税相当額を控除するべきではないかにつき、争いがあります。
自動車事故により被害者が死亡したり、あるいは、後遺症が残った場合、被害者は、将来にわたって得られたはずの収入を得られなくなる一方、将来にわたって納付すべきであった所得税を納付しなくてよいことになります。
そこで、被害者は、損害賠償の原因である自動車事故と同じ原因によって、将来の所得税を納めなくてよいという利益を受けたとして、損害賠償額から将来の所得税相当額を控除するべきではないかにつき、争いがあります。
2.
判例
実務上、損害賠償額から将来の所得税相当額は控除すべきでないとする取扱いが通例となっています。
実務上、損害賠償額から将来の所得税相当額は控除すべきでないとする取扱いが通例となっています。
(ハ)
社会保険給付金
Q:
自動車事故の被害者が、社会保険給付を受けた場合、社会保険給付相当額は損害賠償額から控除されるのですか?
A:
社会保険と損益相殺
自動車事故にあったことにより、雇用保険、厚生年金保険、国民年金保険、各種健康保険、労働者災害補償保険(労災)等の社会保険を受けた場合に、加害者の損害賠償額からこれら社会保険給付相当額が控除されるかどうかについては、実務上、統一した取扱いはなされていません。
この点については、被害者に給付した保険金を加害者に求償できるとする規定の有無によって、損益相殺すべきかどうかを判断しているようです。
自動車事故にあったことにより、雇用保険、厚生年金保険、国民年金保険、各種健康保険、労働者災害補償保険(労災)等の社会保険を受けた場合に、加害者の損害賠償額からこれら社会保険給付相当額が控除されるかどうかについては、実務上、統一した取扱いはなされていません。
この点については、被害者に給付した保険金を加害者に求償できるとする規定の有無によって、損益相殺すべきかどうかを判断しているようです。
1.
健康保険
健康保険給付金については、被害者に給付した保険金を加害者に求償できるとする規定があるため、実務上、損益相殺が認められる傾向にあります。
健康保険給付金については、被害者に給付した保険金を加害者に求償できるとする規定があるため、実務上、損益相殺が認められる傾向にあります。
2.
労災保険
労災保険給付金の種類によって、加害者に求償できるとする規定があるものとないものとがあり、求償規定があるもの、具体的には、
(1)休業補償給付金、
(2)療養補償給付金、
(3)障害補償一時金、
(4)遺族補償年金、
(5)葬祭給付・遺族年金前払一時金、
(6)傷害補償年金前払一時金、
については、損益相殺をした裁判例があります。
他方、求償規定がないもの、具体的には、
(1)休業特別支給金、
(2)障害特別支給金等の特別支給金、
(3)傷病特別年金、
(4)障害特別年金、
(5)遺族特別年金・遺族特別一時金・遺族特別支給金、
については、損益相殺しないとする裁判例があります。
労災保険給付金の種類によって、加害者に求償できるとする規定があるものとないものとがあり、求償規定があるもの、具体的には、
(1)休業補償給付金、
(2)療養補償給付金、
(3)障害補償一時金、
(4)遺族補償年金、
(5)葬祭給付・遺族年金前払一時金、
(6)傷害補償年金前払一時金、
については、損益相殺をした裁判例があります。
他方、求償規定がないもの、具体的には、
(1)休業特別支給金、
(2)障害特別支給金等の特別支給金、
(3)傷病特別年金、
(4)障害特別年金、
(5)遺族特別年金・遺族特別一時金・遺族特別支給金、
については、損益相殺しないとする裁判例があります。
3.
将来の保険給付金
支給を受けることが確定した遺族年金については、損害賠償額から控除(損益相殺)する一方で、いまだ支給を受けることが確定していない将来の遺族年金については、損益相殺しないとする最高裁判例があります。
労働者災害補償保険法による障害年金、厚生年金法による障害厚生年金についても、確定した年金については損益相殺し、将来の年金については損益相殺しないとする裁判例があります。
支給を受けることが確定した遺族年金については、損害賠償額から控除(損益相殺)する一方で、いまだ支給を受けることが確定していない将来の遺族年金については、損益相殺しないとする最高裁判例があります。
労働者災害補償保険法による障害年金、厚生年金法による障害厚生年金についても、確定した年金については損益相殺し、将来の年金については損益相殺しないとする裁判例があります。
損益相殺