事業承継

事業承継はいつ開始したらよいか

1 はじめに

事業承継と聞いたときに、「いずれは検討しないといけないな」とか、「経営者が高齢になって一線を退いてから検討すればいいかな」と思う方も多いのではないでしょうか。

しかし、事業承継に関する実務を取り扱う中で、なるべく早く検討をはじめる方がベターと感じるケースが多いので、今回はその例や理由をご説明いたします。

2 理由その1:認知能力の問題

これまで、本トピックスでは、信託を利用した事業承継(1、2回)、種類株式と遺言を利用した事業承継(5、6回)など様々な事業承継対策をご紹介してきました。

これらの事業承継スキームは、まだまだ一般的に知られている方法とは言い難いところ、内容を理解することが難しいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そもそも、様々なスキームを活用して経営者が遺言書を作成したり、信託契約を締結したりする等の法律行為を行うためには、その法律行為の内容を理解する能力が必要となります。

※遺言の場合は「遺言能力」、信託契約等の契約締結の場合は「意思能力」が必要となります。

特に、事業承継対策を組み合わせた遺言書は、通常の個人の方の遺言書に比べて、その内容がより難解である場合が多いため、十分な認知能力(理解力)が必要となります。

「対策をするのはまだ早いかな」と思って先延ばしにしていると、いつの間にか認知能力が低下してしまっていた、という事例も多々お見受けします。

そして、遺言能力や意思能力が失われた状態で作成された遺言や信託契約(例えば、高齢で認知症が進行していたにもかかわらず、無理矢理遺言書を作成させた場合など)は、無効となってしまいます。

そのようなことにならないように、なるべく早く事業承継対策の検討を行うことをお勧めいたします。

3 理由その2:相続税対策の準備期間

また、事業承継を行う時間的余裕があれば、その分だけ、行い得る相続税対策のバリエーションが増えるといえます。

まず、典型的な対策方法としては、自社株式を毎年贈与税が発生しない110万円以下の範囲で後継者に贈与する方法(暦年贈与)を取ることができます。

相続開始まで、2・3年しかない場合と15年以上ある場合とでは、節税効果が相当異なります。

また、経営者が認知症になった後も定期的に贈与できるように、信託会社に株式を信託し、信託会社を通じて議決権行使をしつつ、信託会社により後継者に対して、株式の暦年贈与を行わせる信託契約を締結することも考えられます。

他にも様々な相続税対策の方法がありますが、十分な準備期間が存在する方が柔軟な対策をとることができるといえます。

4 理由その3:後継者の育成に要する整備期間の確保

また、事業承継は当然ながら、法律的、税務的問題に限らず、適切な経営能力のある後継者を選定、育成できるかが重要になってきます。

経営者自身の子供を後継者として考える場合には、経営者が健在の時期から後継者育成を行うことが必要となります。

後継者が事業に関する知識、経験を習得し、社員や取引先の信用を得るためには一定程度の期間が必要です。

5 最後に

事業承継は会社の存続に関する重大な問題であり、事業承継の失敗により、会社の経営が悪化したケースも少なくありません。

意思能力等の問題のみならず、後継者の育成の観点から、事業承継を検討することが拙速であるということはないと思われます。

そのため、事業承継に少しでもご興味がある経営者の皆様は、ぜひ気軽に弁護士等の専門家にご相談ください。

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